« 大杉漣の漣ぽっ 高崎 | TOPページへ | 能年玲奈 ENEOS CM »

2014年08月26日

● A子の話(その39)


僕は初めてB子を喫茶「職安」に連れて行った。




昔は商店街の片隅に一軒や二軒 当たり前の様に個人経営の喫茶店があり、その喫茶店もその一つだった。


その喫茶店の内実については別に語るとして、ざっくりとだけど前書きしておくと 僕や後年に親の跡を継いで開業医になった友など数人の高校生がひょんな事からその喫茶店に屯するようになり、大げさに聞こえるかもしれないが、その後 今日に至るまでの学生達の人生や運命に大きく影響を与えた場所でもあるが、その当時 僕達はそんな大げさな事になるとは思ってもいなかった。


ただその頃の僕達は 学校をサボってどこかでその時間を過ごそうするには河川敷や公園が手っ取り早い場所だったが、天気の悪い日や真冬ともなれば 今の様にファーストフード店やカラオケボックスみたいに学生でも利用出来る簡易な施設と言えば喫茶店ぐらいしか無く、今思えばくだらない話かもしれないけど コーヒーを飲んで煙草を吸えば ちょっと大人になった気分が味わえた…というのも理由の一つ


だが、それ以上に僕達にとって喫茶「職安」は 胡散臭い仕事内容の方が圧倒的に多かったけれども その頃の相場では破格のバイト料と待遇を簡単にもらえるがゆえに 本来の店の名前ではなく、「職安」と僕達は呼んでいた店だった。


普通であれば誰が考えても 学生ならば学校で授業を受けているはずの時間に 僕が喫茶「職安」に現れても店に集う常連さん達は驚きもせず、下手すれば


「オマエ、今日これから暇か? なら、ちょっとバイトしてくれないか?」


と、声がかかるところだったのだが、僕の後からB子が店に入ってきたのを見て


「え? 女連れ?」


「てめぇ、学校サボるのはともかく ナンパしてやがったのか? ふざけやがって!」


「ダメだ、煙草と酒は見逃してやるけど 不純異性交遊だけはダメだぞオマエ」


等と騒いだので


「これ、俺の許嫁だから、双方の親も公認だから、そういうの不純異性交遊とは言わないっしょ?

 文句があるなら俺らじゃなくて コイツ(B子)の親父に言って」


僕がそう言うとB子は


「はじめまして、ブタネコの許嫁のB子と申します よろしくお願いします」


と、何事も無い様に普通に挨拶してる


その様子を見て常連さん達は


「え? 今、何て言った?」


「許嫁ぇ? その歳で? 前から小生意気なガキだと思ってたけど…」


「もったいないぐらい可愛いぞ いいのか?」


常連さん達は顔を寄せ合ってブツブツ言いながら チラチラと僕達を見ている。


が、それぐらいで動じていては そんなオッサン連中とは付き合えない。


僕とB子は空いていた奥のボックス席に腰を下ろし、僕はカウンターの奥で やはり興味津々な顔をしている喫茶店のママにコーヒーを頼んだ。


「へぇ、ここが 後年に親の跡を継いで開業医になった友クン達と屯ってる喫茶店なんだぁ…」


キョロキョロと好奇心全開で店の中を眺め回していたB子は


「すいません、私はレモンスカッシュと カレースパゲティをお願いします。」


と。


それを聞いて 僕も昼飯を食いそびれていた事を思い出し、鞄から弁当を取り出すと


「これ、ここで食べても良いよね?」


と、ママに聞くと


「飲食店に食べ物を持ち込むって どういう事よ?」


と、苦笑いしながらも それ以上の文句は言わなかったので 僕は弁当を食べ始めたのだが…


ふと、ある事に気づき


「なぁ、オマエ(B子) 今、この店のメニュー見ないでカレスパ頼んだよな?

 喫茶店なんだからレモンスカッシュは良いとして、なんでカレスパなんてのがあるって知ってたんだ?」


と、B子に聞くと


「前に、アンタ達が学校サボって何処に行ってるのかを

 後年に親の跡を継いで開業医になった友クンや180cm男クンに聞いた事があるのよ

 で、その時に180cm男クンが

 ”カレースパゲティって言ってさ ミートソースの代わりにカレーかけたスパゲテイが

  その店のメニューにあるんだけど これが想像以上に美味いんだよ”

 …って教えてくれたのよ


 そんな話をA子に言ったら A子が”その店に行って食べてみたい”って言ってたんだ」


確かに僕は 別に秘密のしていたわけじゃ無いんだけど B子に喫茶「職安」の話をそれまでにした事は殆ど無かった。


そう言えば、僕達が喫茶「職安」に通い出してそんなに間もない頃、札幌近郊のとある街のパチンコ店で、夜の9時のパチンコ店の閉店時間から 翌朝10時の開店まで(厳密には警察の立ち会い検査などがあるので実際には翌朝8時までというリミットだったが)の間に200台のパチンコ台を入れ替える(と言っても工事は島大工と呼ばれる専門の職人が行い 僕達は機械の出し入れ専門の力仕事担当だった)というバイトをした時、パチンコ店のオーナーが 僕達バイト学生にチップ代わりに、同時に入れ替えていたパチンコの景品から好きな物を持って行って良いぞと言われ その中にあったスヌーピーの大中小のぬいぐるみを 僕と親の跡を継いで開業医になった友と180cm男がそれぞれ一つずつ貰った事がある。


実を言うと、僕や親の跡を継いで開業医になった友は 他の景品にそれぞれちょっとひかれた物があったのだが、180cm男が


「A子、スヌーピーが大好きなんだよ 僕らでそれぞれ一個ずつ貰ってA子にプレゼントしようよ」


と、言い出し そうする事にしたのだ。


A子はそのスヌーピーのぬいぐるみをとても喜び、一番大きなやつを病室の枕元に置いて気に入っていたので


「ああ、あの一番大きいのは180cm男のプレゼントだ なにせ、贈った奴が180cmの無駄に身長がでかい奴なんだから」


と、僕や親の跡を継いで開業医になった友は180cm男をからかい、


そのぬいぐるみがA子と共に棺に納められてA子のお供として旅立っていったのを 葬式の時に号泣していた180cm男に


「オマエの身代わり(一番大きいスヌーピー)がお供についていったんだから 泣いてる場合じゃ無ぇべ」


と慰めたんだっけ…


そんな事を一人で思い出していて ふと気づくと、目の前に座っているB子がちょっと寂しそうな雰囲気


これは何か話題を変えなくては…、いや、それよりも肝心な話があったんだって事を僕は思い出し


「なぁ? 俺とオマエが婚約…って それでオマエ本当に良いの?」


前の晩からどうしても本人に確認したかった事を 僕はようやくその時に聞いた。


B子は まじまじと僕の顔を見つめ


「今更、婚約は冗談でした…って アナタ言えるの?」


と、僕に聞く


「言えない… って言うか、夕べのはオマエの単独宣言じゃん、オマエが

 ”あれは冗談よ”って言えば それで仕舞いじゃん」


と、僕が応えると


「アンタ、うちのお父さんに外に連れ出されてビンタまでされてたでしょ 三発も」


「見てたの?」


「うん、こっそりと。

 あ、私だけじゃ無いわよ アンタの家族や、ウチのお母さんや C男君とこの家族もみんな」


「え? ホントに?」


「あのタイミングでうちのお父さんがアンタを連れ出すんだもん みんな興味津々よ

 アンタが”ありがとうございます”って言った瞬間に目出度く婚約成立したんよ」


「じゃぁ、本当のオマエはどう思ってるの? それで本当にいいの?」


B子は届いたレモンスカッシュのストローを弄びながら澄ました顔をしている。


そして、少し間を置いた後、


「私? 私は良いわよ、だって、私が言うたんやん? 嫌だったら言わんわよ」


と、ちょっと恥ずかし気に言った。


「え? じゃ、オマエは俺を愛してくれちゃってたりするわけ? 本当に?」


僕が身を乗り出して聞くと 今度は怒った様に


「ええ、前からずっと夜も眠れないほどに アナタの事ばかりを想い慕っていたわよ…

 って事でいいやん うん、そうしましょ」


あっけらかんとそう言うB子に 僕は何て言っていいのか言葉が見つからなかった。


目の前のB子は前日までとは違って遠い目をまったくせず、怒っている気配も漂わず、いつの間にか むしろサバサバと、元気だった頃のA子と一緒に帰り道を歩いている様な雰囲気だった。


そして、


「アタシと婚約するのが嫌なの? 不満なの?」


と、真顔で聞いてきた。


僕はその時、即答出来なかった。


聞かれた事に応えるよりも、真顔のB子が 綺麗というか、可愛いいというか、そう とても佳い表情で見惚れてしまったんだ。


タイミングが良いのか悪いのか、その時 B子が頼んだカレースパゲテイが運ばれてきて B子はそれをひと口、ふた口と食べ始めた。


「へぇ… こういう味なんだ 美味しいね。

 こういう食べ方は盲点だったなぁ… 


 ねぇ、知ってる? A子ってさ カレーライスを食べた事無かったんだよ?


 「ボンカレー」のCMをラジオやTVで知っていて どんなものか食べたいんだけど、A子のママが許してくれないって言うからさ

 ウチに遊びに来た時に御馳走してあげたのよ

 そしたら、”こんなに美味しいのになんでウチでは食べさせてくれないんだろう”…だって

 それ聞いて、私も ウチのお母さんもビックリよ


 このカレースパゲテイは A子、絶対に気に入るわね…」


カレースパゲティを食べながら 一人で喋るB子に 僕は何も言えなかった。


何かを言おうとしたら 僕は泣き出しそうだったんだ。


たぶん、間違い無くそれは僕の表情に表れていたんだと思う。


B子は僕の顔をちょっとの間見つめると


「何泣きそうな顔してるのよ? 泣きたいのはコッチなんだからね、私の前で泣かないでよね」


少し怒った顔で僕に言い レモンスカッシュをストローで一口飲むと


「カレーとレスカって相性最悪ね

 せっかくカレースパゲテイが美味しいのに 口の中が台無しだわ これ、後はアナタが飲んで」


飲みかけのレモンスカッシュのグラスを僕の方に押し出すと


「すいません、バナナセーキ下さい」


と、注文している。


僕は そのレモンスカッシュを何も考えずに一気に飲み干した。


もの凄く酸っぱかった。


A子はカレースパゲテイを 僕は弁当を その後しばらくの間、会話もせずに二人それぞれ黙々と食べた。


カレースパゲテイを食べ終え、B子は新たに届いたバナナセーキを一口飲むと 


「A子がね 逝っちゃう何日か前に言ったのよ…


 眠ってる間の夢だったのか、薬の副作用でボーッとしている時かは定かじゃないけど

 何年先の事かは判らないけど、間違い無くそれは未来の景色が見えたんだって

 で、その景色の中で私とアナタは結婚していて アナタが赤ちゃんのおむつを換えていたんだって

 それがとっても羨ましくなるぐらいに幸せそうだったんだって…」


いきなりのその話に僕はさらに言葉を失いつつ、あの病室で弱っていくA子がB子にそんな話をしていたのかと想像したら、我慢の限界を超え、僕の目から涙が溢れて出した。


そんな僕を見てB子は優しく笑い


「他にもいろいろA子は話してくれたんだけど もったいないから今は話さない。


 でもさ、私は私が死ぬまでA子の事は絶対に忘れない。

 そして、時々、昨日までみたいにA子の事を思うと腹が立ってどうしようもなくなると思うんだ…


 昨日、豊平川のところでさ 私が泣けないのは私が怒っているからだ…って言ったじゃない?

 あの後さ、気がついたんだよね

 アンタさ、A子が逝っちゃってから 河原とか公園とか私が行った先についてきて ずっと黙って私の事を見てたでしょ?

 アレってさ、A子が言ってたアナタの優しいとこなんだなぁ…って

 でさ、私がA子の事を思って腹が立ってどうしようもなくなった時、

 それを黙って理解してくれるのってアンタだけなんだな…って」


話しているウチにB子は言葉に詰まった様になり、黙ってうつむいている。


よく見ればB子は泣いていた。


大粒の涙をボタボタとこぼしながら うつむいて泣いていた。


真っ正面からその姿を見ていて 当たり前だが僕も涙が止まらなかった。


B子に何か気の利いた言葉をかけてやりたかったんだけど、それどころじゃないぐらい僕も泣けて言葉が出なかったんだ。


だから、しばらくの間、何も言わず二人で泣いていた。


すると、それまでカウンターの席に腰をかけてコーヒーを飲んでいた喫茶「職安」の常連さん達の中でもボス的存在の運送屋のNさんが 湯飲みを二つ載せたトレイを僕に差し出し


「ん? なんだなんだ? 高校生のアベックが昼の日中に二人で泣いてどうした? 別れ話がもつれてんのか?

 だったら、アレだ もうすぐここにタチの悪い弁護士(常連のOさんのこと)が来るから そいつに相談すると良い。

 ほら、人間泣くと水分と塩分が足りなくなっちゃうから 俺のおごりの昆布茶でも飲んで 一息つけや な?」


と、いかにも楽しげな表情


それに対して、僕はなんかムカッと腹が立ったので


「別れ話なんかじゃ無いっス!

 これからの二人の明るい家族計画を話し合ってたところですから ほっといてくれませんか!!」


たぶん店中の常連さん達は皆、こっそりと僕達の様子を覗いていたのであろう


僕がトレイを受け取りながら 怒鳴る様にそう言い返すと、皆が爆笑し出した。


お駄賃

 気が向いたら…で結構です。^^;

 この記事への御駄賃がわりに下のバナ-のいずれかを クリックして頂けると嬉しいです。^^
 (全部、クリックしてくれると もの凄く嬉しいのは事実です。^^)

ブログランキング・にほんブログ村へ Blog Ranking 人気映画・TVBLOG blogram投票ボタン BlogPeople「自分のこと」部門にクリック BlogPeople「テレビ」部門にクリック BlogPeople「映画」部門にクリック

『A子の話』関連の記事

コメント

ありがとうございます。

★ 高橋信之 さん

お粗末様で^^


【※注意!!】

この記事は『ブタネコのトラウマ』の倉庫に保管されている記事なのでコメントの投稿は出来ません。 2015年2月10日以降 このクソブログは『ブタネコのトラウマ・リニューアル版』に移転しましたので新規記事更新及び、過去記事へのコメントの受付もそちらで行っておりますので お手数ですが、そちらへの移動をお願い申し上げます。