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2013年01月25日

● A子の話(その33)


新年早々、僕は「自衛隊生徒」の2次試験を受験した。




2次試験の内容は「身体測定」と「面接」で この時の「身体測定」とは一般的な身長・体重等の測定だけでは無く、血圧や視力、聴力、医者による問診、触診等々…


この時受けた検査で最も印象的だったのは 僕はパイプ椅子に目隠しをされた状態で姿勢を正して座り、僕の背後に立った検査官が左右どちらかの手に懐中時計を持って両手を真横に広げた状態で始める

検査官は左右の手を僕の耳に少しづつ近づけ 僕は時計のチッチッと針が動く音が聞こえた瞬間に聞こえた方の手を挙げて検査官に報せる…というもの


面接は陸海空の制服を身にまとった3名の自衛官の放つ質問に応える形式で 僕の場合、出願時に願書の「希望欄」に「将来的には陸上自衛隊のヘリのパイロットになりたい」と記入していた事から海上自衛隊や航空自衛隊の面接官から「海上自衛隊じゃダメか?」「空なら空自の方が」と散々に責められた事ばかりだけが記憶に残っている。


だが、基本的に感触は上々で、面接中に陸上自衛官の面接官が


「君、筆記試験なかなか良い点数を取っているんだけど 高校はどこ受ける予定なの?」


と聞くので


「@@高校です」


と、進路指導や担任から猛反発くらっているのは言わずに応えると


「やっぱりねぇ… それぐらいじゃなきゃこんな点数は取らないモンね

 で、もし自衛隊生徒と@@高校 両方受かったらどうするの?


と、予想通りの質問 僕は胸を張って


「自衛隊生徒に行きます ヘリのパイロットになりたいですから」


そう応えると


「ホントに? これ重要な質問だからね、もう一度聞くけど、自衛隊生徒に受かったら本当に入校するの?」


と意味ありげに聞くので


「もちろんです」


と僕が応えると


「大きい声じゃ言えないけど 今、君の資料を見ていて不合格にする要素は何も無いから 安心していいよ」


と、コソッと言ってくれたもんだから もう、僕は内心有頂天


完全に受験生モードはその日で霧散してしまい、残りの冬休みを 本を読んだり、プラモデルを作ったり まるで受験生とは思われない過ごし方で、3学期が始まり学校に登校してみると周囲の生徒達が日増しに悲壮感を漂わせるのとは反比例の状態で 僕は日増しにダラケていった。




で、2月になり 公立高校の試験日まであと1週間…ぐらいの時期に 僕にとってその冬2番目の事件が起きた。




数日後に「自衛隊生徒」の合格者が発表される…というタイミングの日の晩の事。


いつも通り決まった時間に帰宅した僕の父親は いつもなら直ぐにシャツとステテコ姿になって猫と遊び、B子やC男の父親達がそれぞれビールやウィスキー、それにツマミを持って現れるのを待っているはずなのだが、その日に限って制服のまま着替えもせずに難しい顔で座っている。


やがて、やはり制服姿のB子やC男の父親も我が家に現れ 僕を茶の間に呼ぶと、テーブルを挟んで僕と相対する様に三人は僕の父親を中心に横一列に並んで座り、訝しむ僕に


「いいから、はやくそっちに座れ」と言うので 言われた様に僕が座ると三人同時に声を揃えて


「本当に申し訳ない」


そう言って三人同時に制服姿の幹部自衛官が深々と僕に向かって頭を下げた。


「え? なに? いったい何がどうしたの?」


訳の判らない僕に僕の父親が


「すまんが、オマエの”自衛隊生徒”への入校は 父親である俺の権限で辞退させてもらった」


という。


しばらくの間、父親が言った言葉の意味が理解出来なかった。


が、呆けている様な僕に向かって また三人同時に


「本当に申し訳ない!」


と、親父達は頭を下げたまま一向に頭を上げようとしない


なので、


「頭なんかさげなくていいから、理由を説明してよ」


そう僕が言うと、C男の父親が代表して事情を説明してくれたのだが…




【※注意】以下の記述には多少、問題のある記述が含まれますので

     実在する個人、団体とは何の関係も無いフィクションだと認識して読み進めて下さい。




その時の話を要約すると…


まず、僕を含めて僕が頼んで受験した計6名は1次試験に 自分たちが言うのもナンだが、相当に良い試験点数で合格したのだが、中でも「気の弱い男」は全国の受験者全員の中でも最高点を取っていた。


にも関わらず、そんな成績優秀者の6人中、5人が二次試験に来なかった事に当時の札幌地連はおろか、防衛庁の関係部署が「なんで?」って事で問題になってしまったのだ。


以前にも記した事だが、元々、受験するのは僕だけだったのだが 受験者確保のノルマを達成出来そうに無かった地連関係者の依頼で 頭数だけのサクラで揃えた5人だったから学生達には何の罪も問題も無い。


しかしながら、結果論で言えば単なる頭数だったはずの5人が予想外に試験で高い点数を取り過ぎてしまったんだな。


が、そんな事情は防衛庁本局では判るはずも無く 特に、全国トップの受験者の辞退を重く見て調査となり、札幌地連のサクラ受験がバレて叱責問題にまでなったのだ。


そして、さらに事態を複雑化させたのは その時の数年前から、陸上自衛隊内部で昇進試験などの試験問題が漏洩しているらしい…という疑惑が実はあって 僕に言わせれば僕達の受験と漏洩疑惑は全く関係無い事なのだが、何故かその問題まで関連があるんじゃないのか? しかも、一人だけ二次試験を受験したのは現職幹部の息子… そういった状況が僕の父親達と仲の良くない他の幹部達から悪意に解釈されて指摘されたりした事から 最終的に僕の父親がブチ切れ


「だったら、ウチの息子も辞退させる!」


と、宣言してしまったのだ。


「…という事は 俺、自衛隊生徒に行けないの?」


と、僕が聞くと 僕の父親はすまなそうな顔で


「うむ」


「じゃ、俺 どうするの?」


「高校の入試を頑張ってくれ」


「いや、俺 自衛隊生徒に受かるものと思ってたから進路指導に逆らって2ランクも上の

 @@高校に願書出しちゃったんだけど…」


「私立でも、最悪の場合、浪人しても父親としてオマエの面倒はちゃんと見る…」


僕は言葉を失った。


普通は「目の前が真っ暗になった」という表現を小説なんかではよく用いるけど、その時の僕は「目の前が真っ白になった」


どれぐらいの時間だったか判らない程、僕にとっては長い時間呆然としていたが、周囲にとってはそんなに長い時間では無かった様な気がする。


我に返ると何故か自分でもよく判らないんだけど、今度は無性に笑えてしまって仕方が無かった。


そんな「ククク」と笑ってる僕にC男の父親が


「どうした?」


と、気が変にでもなったのか?と心配そうに聞いたので


「だって、もう辞退しちゃったんでしょ? だったら、どうしようも無いじゃん。

 まぁ、言われなくても入試頑張ってみるけどさ ダメでも怒られないんでしょ?

 なら、少しは気が楽になったよ。」


そう僕が応えると C男の父親が


「どうなんだろう? 今なら中学の先生に頼んだら願書先を変更出来たりしないかい?」


と言ったのに対して


「オジサン、それだけはもし可能だったとしても自分は絶対に嫌です

 今更、アカ教師達に頭を下げるのは生き恥をさらすのも同然で、死んだ方がマシです。」


と、僕はにべもなく断ると 僕は父に


「父さん、せめてお詫びに寿司食わせてよ 寿司を腹いっぱい食って切り替えるからさ」


すると、B子の父親は突然立ち上がり 両目からボロボロと涙を流した、それはまるで「巨人の星」の「伴宙太」のように僕を羽交い締めにする様に抱きつくと


「寿司でん、焼き肉でん なんでんよか、オイが腹いっぱい喰わしちゃる!

 そいでこそ、オイの倅も同然ったい!」


その日、僕は生まれて初めて寿司屋のカウンターで腹一杯寿司を食った。


カウンターで僕の右隣に僕の父親が座り、何も言わず怒った様な顔でホッキのヒモをツマミに日本酒を飲み続け、僕の左に座ったB子の親父は やはり、豪快にグビグビ日本酒を飲みながら時々僕を見てはニコッと笑い、目尻をキラッと輝かせては照れ臭そうに鼻をすすっていた。


お駄賃

 気が向いたら…で結構です。^^;

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コメント

待ってました、A子の話!
再開嬉しいです(^-^)/

入学できない事は判ってましたが、そういう訳だったんですね。この後の展開が楽しみです。

★ ココクロコ さん

そりゃ、良かった。^^


★ ファルコン さん

そうですか、楽しみですか…^^;


待ってました!『角を矯めて牛を殺す』を地で行くような、そんな話ですね。
『A子の話』と『陸上自衛隊・一般道シリーズ』とても楽しみにしています。今後も無理の無い所で、細々と更新お願いします!

★ ちょろ松 さん

判りました。^^


「B子の親父」さんにはいつも泣かされます。
正に「伴宙太」のイメージを抱いておりました。
今回もいい話を感謝しております。

高橋信之

★ 高橋信之 さん

お楽しみ頂けて幸いです。^^


【※注意!!】

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