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2012年11月26日

● A子の話(その31)


いよいよ、師走の季節




以前記した「自衛隊生徒」の一次試験の合格者発表があり、受験した僕を含めて6人全員が合格した。


とは言え、僕以外の5人は ただ受けただけで合格しても入校する気は全く無いから気にもしていなかったのだが、僕はそこに進んで将来的にはヘリのパイロットになりたい… そう思っていたから、夢へのまず一歩が叶ったとも言えるわけで 言い換えれば中学三年生においての僕の受験は終了した(とはいえ、まだ2次試験もあるんだけどね)


今の中学生達がどうなのかは判らないが、その当時の僕達は冬休みが始まる前に最終的な進路相談の段階となり、全ての三年生が受験校を決め終える。


僕以外の5人とA子とB子は 皆、学区内でトップの公立高である進学校を志望校と希望したが、「虎刈りの丸坊主に髪をバリカンで刈られた男」は「模試の成績では点数的に危ない」という理由で 「後年に親の跡を継いで開業医になった友」は「模試の成績では余裕で合格だが、内申点で足切りされる可能性が高い」という理由で1ランク下の高校への受験にしろと進路指導や担任の教師から連日諭されていたが、「虎刈りの丸坊主に髪をバリカンで刈られた男」は「親兄弟皆がその高校の卒業生の為、自分だけがそこに行かないわけにはいかず、仮に状況が厳しくとも それが理由で受験すらしなかったってのはロックじゃない」という理由で、「後年に親の跡を継いで開業医になった友」は「もし落ちたら東京の私立に行きますんで公立校ぐらい好きなところを受けさせて下さい」という理由で「それ以外の高校に願書を出さない」と粘っていた。


かくゆう僕の場合は 既に「自衛隊生徒」への入校がほぼ内定していたから 正直言えば高校を受験する必要を感じていなかったのだが、そこで不可思議な進路指導を受けさせられる羽目になり困惑していた。


それは、その時には本当の理由が判らなかったのだが 後になって判った裏事情で説明すると 当時の中学校の三年生の学級担任、それに進路指導の教師、それと教頭と校長の殆どが3年生の「進学率」「受験校に対する合格率」という数字に異常な程拘っていた事。


つまり、僕の「自衛隊生徒」への入校とは 教師達からは「進学」ではなく「就職」と扱われ、僕が高校受験をしないと そのぶん「進学率が下がる」ので、最終的には「行かなくても良いから受けるだけ受けろ」と言うのだ。


僕にしてみれば受験するのはやぶさかではないが、日頃から嫌っている教師達の意味不明な拘りの為に受験するのはまっぴらゴメンな話だから「嫌だ」「必要無い」と突っぱねていたのだ。


で、そんな時に最初の事件が起きた。


「自衛隊生徒」の一次試験の結果において いっぺんに6人の合格者が一つの同じ中学から出たという事で裏事情を知らない自衛隊の札幌地連のお偉いさんが感激し わざわざ僕達の通っていた中学に挨拶に来たのだ。


その場にいたわけじゃ無いので想像で記すが、


「このたびは いっぺんに同じ中学校から6人も一次試験の合格者が出た事は ウチの地連では前例の無い快挙で…」


みたいなノリの余程嬉しかったのであろう地連のお偉いさんに対して 僕の通っていた中学の日教組や北教組の活動家教師達は


「自衛隊なんかに 何故? 全くもってとんでもない話だ」


「中卒で自衛隊なんて右傾化洗脳教育以外の何物でも無い!」


等と、驚き、かつ怒り、そしてそれがどうやら僕の仕業と判ると


「オマエ一人ならともかく 他に5人も煽動するとは何事か?」


と、僕に怒り始めたのだ。


「誰が何処を受けようが勝手でしょうが」


と、僕が反論しても


「自衛隊なんかに6人も受験して、揃いも揃って合格したなんて教育者として恥ずかしい」
(ホントにそう言った教師がいたんだよ)


そういう怒り方をされて僕もブチ切れ


「何が理由で自衛隊を目の敵にするのか? それほどオマエらは人格者でまっとうな教師か?」


なんて言い返し、互いに胸ぐらを掴み合う


さすがに他の教師が慌てて僕とその教師を引き離し冷静になれと諭し…


結論から先に言えば 僕以外の5人は最初から試験を受けるだけで合格しても自衛隊生徒に入校するつもりは無かった… と、それぞれ5人が呼び出されて答えた為 最終的には教頭の判断で「これ以上騒ぐな」となったんだ。


ただ、進路指導の教師は さらに不可解な事に


「先生達に余計な心配と迷惑をかけたんだから 高校受験だけはちゃんと受けろ」


と、意味不明だが交換条件で許してやる…みたいな物言いで収拾を図ろうとし 僕も他の5人に頼んで自衛隊生徒を受けて貰った事を考え「じゃぁ、今度は俺が頼まれて受けてやる」…みたいな解釈で


「いいですよ、じゃぁ受けますよ」


と答えた事で ひとまずは落ち着くかと思われたが、僕にも意地は残っているし アカ教師に対する怒りの炎は消えてない。


「受ける以上は 自分が受けたい高校を受けさせてもらいます」


と、担任や進路指導の教師に宣言し A子やB子達が受験する高校を受験志望校として希望を出した。


すると、教師達は


「オマエの内申点じゃそこは絶対に無理だ 内申点で言えば2ランク下の高校にしろ」


と言い、僕が頑強にA子やB子達が受験する高校を受験志望し続けると


「落ちるのは目に見えているんだから それだったら受験するな」


とまで言う


「ふざけるな!

 試験の成績だけで言えば 一年の時からコンスタントに相応の成績をおさめているのに

 通信簿の評価に日頃からのアンタ達の組合活動を批判した事への報復を込めて評価を下げておいて、

 ここに至って他人事みたいに 内申点が悪いのはオマエのせいみたいな事を言わないでくれませんか?」


僕がそう反論すると さっきまで僕と掴み合ってた教師は


「ほんと、右翼思想は話にならんな」


と、再び 顔を真っ赤にして飛びかからん勢いになり、他の教師達が慌ててとめる。


「まぁ、とりあえず今日は家に帰って 両親と相談しろ」


進路指導の教師の言葉に従い、家に帰ると 両親にその日の学校での出来事を話した。


すると、僕の父親は少し困った様な苦笑いみたいな表情で


「どうせ、自衛隊生徒に行くんだろ?

 だったら、教師の顔を立てて2ランク下の高校を受けてやればいいじゃねぇか」


と言い、母親は


「アンタの好きにしな」


とだけ言って我関せず。


ただ、何故かそこに僕の親父の晩酌に付き合っていたB子の父親は 見るからに不機嫌そうで 普段ならその後1・2時間は僕の親父と飲みながらバカ話で盛り上がってるはずなのに


「なんか、風呂ば入りとうなったもんね。 キサン(僕に)ちょっと銭湯に付き合わんね?」


そう言って僕を近所の銭湯に連れ出すと熱い湯に首まで浸かりながら


「キサン、アカ教師に好き勝手ばいわれて悔しいんやろ?」


そう言われた瞬間、僕はそれまで無理に我慢していたわけじゃ無いんだけど 自分でもビックリするぐらい泣いた。


「気持ちは痛い程判るけど、そこでグッと堪えて ニッコリ笑ってやるのが自衛官よ

 オマエはまだ自衛隊生徒の一次試験に受かっただけやけど、立派に自衛官しとるよ

 このオイがそいば認めちゃる。

 やけんが、自衛隊は専守防衛ぞ? この風呂ん中で好きなだけ泣いち、

 明日からは「耐え難きを耐え」の精神でグッと堪えて ニッコリ笑え ええな?」


僕はしばらくの間、お湯が熱いのも忘れて泣き続けていたが 頃合いを見計らった様にB子の親父さんが両手で掬ったお湯を僕の頭に何度もかけて 最後は両手で僕の頭をまるでジャガイモを洗う様に揉むと


「さすがに熱かけん、オイは先に上がるけぇね」


その後、僕もすぐに湯船から出て身体を洗い、そしてもう一度湯船に浸かって風呂場から上がるまでの間 B子の親父さんとは一言も会話が無かったが、銭湯からの帰り 自衛隊官舎のB子の家の前で B子の親父さんはすぐに中に入らず、玄関先でポケットからタバコの箱を取り出すと 一本を自分でくわえながら僕にも勧めて、一緒に火を付けると そのタバコを吸い終わるまで無言のままで 吸い終えるとニッコリ笑って家の中に入っていった。


僕はその時、B子の親父さんは 僕の実の父親では無いけれど、


「コイツはオイの倅同然ったい」


と日頃から言ってくれてるのは必ずしも冗談なんかじゃなく、本当に僕の事を判ってくれてるんだなぁ…と実感し そう思うとさらに泣けた。


で、翌日


昼休みになって後年に親の跡を継いで開業医になった友と弁当を食べ終えて 教室の片隅で雑談に興じていると B子が慌てた様に教室に入ってきて


「ねぇ、アンタ(僕)のお父さんが学校に来てるよ それも自衛隊の制服姿で」


親を交えての三者面談は数日後の予定で しかも、父親ではなく母親が来る事になっていたから


「なんで?」


と僕。


「アタシが知るわけ無いやん 進路指導の先生と応接室に入ってくの見たわよ」


と、B子 たしかに、そりゃそうだ。


それから10分もしないうちに校内放送で


「3年×組のブタネコ君は大至急 校長室の横の応接室まで来る様に」


という呼び出し放送が流れたので行ってみると たしかに皺一つ無い自衛隊の制服姿の僕の父親と進路指導の教師と担任教師の三人が そこにおり、担任教師がソファに座った僕の父親の横を指差して


「そこに座れ」と。


命ぜられた通り僕が座ると まず、僕の父親が僕に


「オマエは@@高校を受験したいんだろ?」


「うん」


「先生方は そこはオマエのランクじゃ難しいって仰ってるけど それでもか?」


「うん」


すると、僕の父親は


「…というわけなんで 仮に、ウチの息子が@@高校を受験して落ちたとしても

 それはこの通り、コイツ(僕)の自業自得なんで先生方は どうか気になさらず

 コイツに受けさせてやってくれませんか? なんなら、責任は問わない旨の一筆を入れますから」


それに対して進路指導の教師が


「なんでもかんでも生徒の希望を鵜呑みにして受験させては 進路指導の意味が…」


と、抗議しかけたが 僕の父親は穏やかに笑いながら


「いやいや、高確率で落ちると判っていても本人が望んでの事であれば

 それを例え教師や父親と言えども強制的には遮る事は出来んでしょう?

 しかも、コイツ(僕)の身内 まぁ、私の兄や叔父ですが 戦争中の話ですが

 笑って突っ込んでいきましたよ敵艦に 家族やお国の為…なんてのじゃなくて、自分自身の信念でね


 どうも、我が家の家系にはそういう”他人様から見たら無謀”を潔しとする家風がありましてね

 私としてもコイツ(僕)の特攻を阻んでは御先祖様達に申し訳が…ってところもあるんですわ

 ま、そういうわけなんで コイツ(僕)の進路に関しては学校側に一切責任は無いという事で

 コイツ(僕)の好きな様にさせる事で これ以上の進路相談も話し合いも必要ありませんので…」


そう言うと、僕の父親は担任達の返事も待たずに自衛隊の制帽を被りながら立ち上がると


「では、先生方もお忙しいようですが、それ以上に私も忙しい身なので これで失礼」


そう言ってビシッと音が聞こえる様な敬礼をして応接室を出て行ってしまった。


僕は父親の後を追いかけ玄関まで行くと 父親はスリッパから革靴に履き替えながら


「なぁ、あの二人の教師のどっちが日教組だ?」


と、僕だけに聞こえる小さい声で尋ねたので


「両方だよ」


そう応えると


「まぁ、もうこれ以上は無いと思うけど…

 まだグズグズ言う様なら我慢してないで殴り倒したっていいんだぞ

 息子が教師を殴ったぐらいじゃ 俺は自衛隊をクビになんかならないからな」


やはり小さい声でそう言うと さらに、


「いやぁ、朝っぱらからB子の父親に怒られたわ…

 アイツの方がオマエの父親みたいだな、いっその事、オマエとB子ちゃんトレードすっか?」


そう言って僕の肩をバンと叩くと「カッカッカッ」と大笑いしながら学校の玄関を出て行った。


そんな父親の後ろ姿を見ていたら


「親父、カッコイイ~」


心の底から、そう思った。


お駄賃

 気が向いたら…で結構です。^^;

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コメント

泣けた。
ブタネコさんのこれまでのなかで一番。

私の親父はただの商売人でしたが、
どこか死んだ親父と共通する昭和一桁生まれの気風を感じました。
感謝します。

ブタネコさんへ
お久しぶりです、いろいろゴタゴタがあり、コメントするのが疎遠になってしまい、すると益々コメントしずらくなり、すっかりご無沙汰してしまいました、申し訳有りませんでした。しかし今日の文章を読むとコメントせずにはおられません。他人の僕から見てもブタネコさんの父君はかっこいいです、それにB子さんの父君も負けず劣らず立派です。本当によい先達に恵まれて育ったのですね、羨ましいです。それにしてもいまどき息子からカッコイイと言ってもらえる父親がどれだけ居るのでしょうかね、天国で喜んでおられると思いますよ。

★ 高橋信之 さん

楽しんで頂けて幸いです。^^


★ タンク さん

いえいえ、御無沙汰なんて気にしないで下さい 便りが無いのは元気な証ですよ^^

ウチの親父、B子とC男の父親 みんな自衛隊の制服を着るとカッコ良かったんです。

シャツとステテコでビールを飲みながらプロ野球を見ていた三人は タチの悪いオッサンにしか
見えませんでしたけどね。

【※注意!!】

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