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2012年02月19日

● A子の話(その21)


中体連の地区大会を順調に勝ち上がり、札幌市の大会の出場権を得た。




3年生にとって中体連は中学の部活最後の大会であり トーナメント形式で行われる野球部の場合は、試合に負けた瞬間が部活からの引退となり、多くの場合は夏休み前の地区大会で敗退し3年生部員は引退して高校入試に向けての受験生活が始まるわけだが…


その当時の札幌市大会は夏休みが始まって間もなく開会される日程だったので、地区大会を終えてから一ヶ月近く間があく その間、1学期の学期末試験や 月1回のペースで実施されていた模擬試験などがあり、教育熱心な方々に言わせれば受験生にとって最も重要な期間を勉強だけではなく練習に費やす事となる。


これは逆に言えば、前回に記した様に「野球での特待入学」を夢見る者にとっては その後の受験勉強なんかより、中体連で如何に高い評価を得るかこそが「入学試験」そのものなわけで ゆえに如何に練習に熱が入っていたか…


人間って不思議なもので 何かに熱中するのはいいけれど、それが度を超すと視野や思考が狭くなる。


似て非なる状況としては 群集心理なんて言い方でひとくるめにされる場合が多いのだが、例えば この時の僕が所属していた野球部の3年生達は「試合に勝つ事、そこで活躍する事」そればかりに夢中で チームの和を大切に…という考え方がいつの間にか 何気ない事、どうでもいい様な事が「チームの和を乱す」と それはあたかもヒステリーの様にピリピリしたものとなっていた。


思えばそれは中学2年だった前年の中体連の時から そういう傾向が強かったのだ。


前年の中体連で敗退した直後、A子の差し入れで腹を壊したのが敗戦の原因と言い出したアホにB子が回し蹴りをプレゼントした事を前に記したが それなどはその典型的な例


A子やB子は地区大会の予選に応援というか見物で来ており、それが気に入らないとか 「アイツらが見に来ると負ける気がする」とか いわゆるゲン担ぎ発言で 僕に


「A子とB子に 試合を見に来ない様に言ってくれよ」


と、必ずしも冗談とは思えない態度で言う奴が少なからずいたわけで…


正直言って それだけでも充分に僕のテンションは下がるし、もちろんそんなつまらない事をA子やB子に言うはずも無い。


地区予選の試合の最中、ショートのエラーでランナーが出た際に 内野がピッチャーマウンドに集まり 普通であれば、守備位置の確認やピッチャーを励ます…なんて状況の時に サードが


「やっぱ、アイツらが見に来てるとロクな事が無ぇ」


…と、バックネット裏で試合を見ていたA子やB子を暗に示す


試合中でなければ襟首捕まえて締め上げるところなのだが、そんなわけにもいかず


些細な事だが、そんな事が積み重なっていくウチに 正直言って僕は内心ムカムカしていたわけで 当然、僕はムスッと不機嫌な表情になり、その本当の理由は判らずとも 暴れ者というレッテルを貰っている僕が不機嫌だと 八つ当たりされない様にチームメイト達は間をあけるわけで… 意思の疎通もクソも無い。


しかも、大抵の人間は 自分の尺度で勝手に他人の心の内を測って決めつける傾向が強く、僕がA子やB子のの悪口に不機嫌であるのに


「あぁ、ブタネコは ショートのエラーに怒ってるんだ」


…と、サードやピッチャーは勝手に決めつけ 当のショートもピッチャーに謝るべきところを僕に向かって


「スマン、ちょっとイレギュラーしちゃってさ」


等と言い訳までする始末。


少年野球の頃は ただ、野球をみんなでするだけで楽しかったし、勝ち負けなんか二の次だった。


それが中学の野球部では「特待生になって…」とか「その為には試合に勝たないと」とか 僕に言わせれば野球とは無縁ないろんな打算が入り込み「勝つ為には」を根本に置いた上で「~な場合は バントでランナーを送る」って事が「セオリー」とか言われる様になる


大別すると 誰だって試合で勝ちたいと思ってはいるが、スポーツって「そのスポーツをする事が楽しい」と考え満足出来る人間と「試合に勝ってこそ楽しい」と考え勝たないと満足出来ない人間と 突き詰めていけばその二極に分かれる。


判りやすく言えば、前者は試合に負けても 接戦で程よい緊張感を味わえただけでも「楽しかった」と満足し笑うが、後者は試合に負けると「勝たなければやる意味がない」とばかりに嘆き悲しむ


ゆえに、前者はエラーをした者に「よし、これで試合に負けても俺のせいじゃねぇ」等と笑って嫌味を言う程度だが 後者は「何やってんだコノヤロウ」と怒る者さえいるのが珍しくない。


その二極にあって 僕は間違いなく前者のタイプである。


仮に、試合に負けたとしても 自分なりに感触の良いヒットが一本でも打てていれば 負けた事は悔しいし残念だけど満足も出来る。


例えば、ノーアウトでランナー無しの場面で打順が回ってくるのと ツーアウトでランナー三塁 一打同点とか逆転の場面で打順が回ってくるケースを比べる時、どちらの場面でも変わりなく最善のバッティングを心がける…ってのが模範解答なのだろうけど、僕は後者の様な場面で巡ってくると「ここで一発決めるのが野球の醍醐味」みたいな気持ちでワクワクし、見事にヒットを打とうものなら その後に再逆転されて試合に負けても 悔しさより満足感の方が勝っていた。


それは僕が長嶋茂雄のプレーに魅了されて野球を始めたからである事は間違いないのだが、当たり前の話だが 僕は長嶋茂雄じゃないわけで…


その頃既にサインプレーは中学生レベルの野球にも導入されており、「勝つ為には確実にランナーをバントで進める」のが当たり前みたいな風潮が出来ていて 余程、期待出来る四番バッターでもケースバイケースでスクイズバントが当然だと。


要するに、「ここで一発打ってヒーローに」なんて考える事 それ以前にヒーローその者の存在自体が必要ではなく、チーム全員がそれぞれの役割を果たして一丸となって試合に勝つ… そういう考え方こそが学校教育に根ざした野球… 言葉の上では綺麗というか、正しいとは思うけど その結果、「勝つ事」ばかりが最優先で、チームの和とか一丸となって闘う事がお題目みたいになっても「勝てば良し」 そんな風潮が僕の中で野球の面白さ、楽しさが欠けていった大きな理由なんだと気付くのはもっと後年になってからで でも、なんとなく監督がバントやスクイズのサインを出すのを見る度に漠然とだけど「なんだかなぁ…」と


で、夏休みに入って間もなく市大会が始まった。


正直言って、僕もそんな気持ちというか考えが無かったと言えば嘘になるけど 小学生の時に札幌市の大会で優勝した経験を持つメンバーがそのまま同じ中学に進んだから それから3年経ったとはいえ、市内の大会で負けるはずが無い、負けるわけにはいかない… それが信念みたいにその時の僕がいたチームのメンバーの殆どが抱いていた事。


そのせいもあってか、危なげなく準々決勝まで勝ち進み あと一試合勝って準決勝(ベスト4)に進めば 決勝に進出出来ずとも全道大会には進出出来る…


そんな状況で迎えた準々決勝の試合 幸いにして相手チームに得点を許さずにはいたけれど、相手のピッチャーはそれなりの速球と変化球を織り交ぜ打たせて捕るタイプだったが、何よりも変則的な投げ方に翻弄されて0対0のまま延長戦になっていた。


それはその年の大会で僕達のチームにとっての初めての苦戦だった。


「勝利こそ総て」


そんな考えに殆どのメンバーが支配されているチームのベンチには 笑う余裕など微塵もなく、冗談めいた言葉を発しよう者なら「ふざけんな」と睨まれる そんな殺気立った様な雰囲気


そんな中で後攻の僕のチームはノーアウトでデッドボールで出たランナーを盗塁と送りバントで1アウトでランナーが3塁という場面になり、次のバッターは僕。


僕としては「ここで打ったら 俺ヒーローじゃん」とテンションが上がりワクワク状態。


でも、セオリーでいけば手堅くスクイズで一点を挙げる場面 当然の如く、初球、監督のサインは「バントの構えで見逃せ」


こういう場合、こちらも様子見だが、相手のバッテリーも一球外して様子を見に来るのがひとつのセオリーでもあり、ファーストやサードがスクイズを警戒してどんな動きを見せるか?とか駆け引きなんだな


しかしながら、監督の性格を考えれば初球に「バントの構え」を要求した時点で「これはスクイズだな」と感じた僕は 内心ガッカリなわけで、精一杯の反抗で最初からバントの構えをするのではなく 僕は何気に「バントじゃないよ 打ちに行くよ」という素振りを見せつつ 相手ピッチャーが投球モーションに入ったところでセーフティ気味にバントの構えをしたところ…


それまでで一番速いボールがナチュラルシュート気味に右打席の僕の懐に投げ込まれ、僕は避けるに避けきれず つい、そのままバントの姿勢で…


結果から言うと、端から見れば絶妙なスクイズバントの様に打球はピッチャー前に落ち 猛然と駆け込んできた三塁ランナーはタッチをかいくぐってホームイン、主審は「セーフ」と横に手を広げている…


でもね、正直に言うと その時、バントの構えだった僕のバットにボールが当たったのではなく 構えてバットを持った僕の右手(正確にはバットを握った指)に当たったものでボールが僕の身体(指)に当たった時点でボールデット(注:デッドボールとは意味が違う)


体勢的に僕が打ちにいっていると主審が判断すればデッドボールではなくストライクだし、ランナーのホームインは認められず3塁に戻される。


ところが、主審は打球をフェアだと宣告し 塁審や相手チームから何もクレームがつかず、そのまま試合は成立終了してしまったのだ。


ホームベースの横でサヨナラ勝ちに喜んでベンチから飛び出してきたチームメイト達とホームインした三塁ランナーが抱き合って喜んでいるのを眺めながら ボールとバットの間に挟まった指の鈍い痛みが増すのを感じつつ 僕は「いいのかなぁ…これで」と自問自答していた時


「あのスクイズば決めたとは オイの倅みたいなモンたい」


数千人の兵士を部下に戦場で命令を下す指揮官階級の 陸上自衛隊幹部の声は大きく、どこまでも響き渡っていた。


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