« 生まれる 最終話 | TOPページへ | SH-60J(第25航空隊(大湊))その1 »

2011年06月25日

● A子の話(その11)


中学2年の夏休みに入って間もない頃。




僕は間近に迫った中体連の市大会に向けた練習の為に部活に通い、足を怪我したB子は自宅で過ごし A子だけは夏休みの間も開放されていた図書館に来て本を読み、たまに気が向くとグランドの脇まで来て木陰から僕たち野球部の練習を眺めたりしていた。


で、そんなA子の姿を見て野球部の先輩達の中には


「あの子、野球が好きなのかな?

 だったら、うちのマネージャーになってくれないもんかなぁ」


…と、言い出す者が出る始末。


というのも僕たちの野球部にはそれまでマネージャーになってくれる奇特な女子が一人もおらず、練習試合などで他校に行くと 殆どの他校には最低2・3人の女子生徒がマネージャーとして甲斐甲斐しくタオルや麦茶の入ったヤカンを持って選手達の世話をしており、時には それがとても羨ましく思えて仕方が無かったんだな。


A子に試しにその話をすると


「ブタネコ君や後年に親の跡を継いで開業医になった友クンの

 個人的マネージャーならいつでもなってあげるけど…


 なんかさぁ、他の野球部の人達って根暗な人が多いから嫌だ」


と、予想通り素っ気ない。


「それに、アタシのお茶は安くないのよ」


とも。


中学2年になって間もない頃から A子とB子は茶道教室と華道教室に連れ立って通う様になっていた。


これは随分と後になってから聞いた話だが、その頃既にA子とB子はまるで双子の様に 何をするのも一緒で、「仲良し」とか「親友」というのは きっとこんなのなんだろうな…と思うほどだったから、基本的にはお茶やお花に興味の無かったA子に 彼女の父親がお嬢様教育として通わせる方便に 元々、お茶やお花に興味のあったB子のぶんも月謝を払うから一緒に通えとし向けたそうだが 当時の僕にそんな事は知るよしもない。


ともあれ、たった1・2回茶道教室に通っただけなのに そんな娘が煎れたお茶を


「やっぱ、正式に習ってる者が煎れた茶はひと味もふた味も違って美味かぁ うん」


と、B子の父親は満足そうに飲み干していたのが印象的で


「あれは絵に描いた様な馬鹿親父だな」


と、馬鹿にしつつも 僕の妹に


「おまえも通ってみるか? 茶道教室」


と、促していた僕の父も紛れもなく娘を溺愛していたアホ親父なんだが。




しかしながら、A子は 少しは気をつかってくれたようで 数日後のちょうど昼時で練習が休憩の時、それを見計らった様に 大きなヤカンを一つ重そうにグランドに持ってきて


「へへへ、差し入れだよ」


と、ベンチの横に置いてそそくさと帰って行った。


ヤカンの中に入っていたのはキンキンとまではいかないが そこそこに冷えた麦茶で、当時の体育会系の間では休憩時間に番茶か麦茶を飲む事は唯一許されていた事だが、マネージャーが3人や4人いる様な強豪校ならともかく、マネージャーなどいない僕のいた中学では話しに聞いて夢見るだけの事


だから、そのヤカンにチームメイト達は歓喜し 奪い合う様にして呑んだのだが…


午後の練習が始まって間もなく 一人、また一人と腹具合が悪くなったと便所にはしる者が出始め、1時間後にはレギュラーの殆どが便所から戻って来ず、練習にならなくなってしまった


結局、その後は体調の良いものだけによる自主練習となったのだが、誰とはなしに


「これって食中毒じゃねぇか?」


「あのヤカンのお茶が腐ってたんだよ きっと」


そう言い出す者が現れたのは言うまでもない。


ただ、これは誰も病院送りになりはしなかったから 正確に調べたものではなく、あくまでも推測の域の話。


しかしながら皆、勝手なもので それまでは


「これで可愛いマネージャーなんかがいて 練習の合間に麦茶なんか作ってくれたら最高なんだけどな」


…等と 憧れた様に言い、たまたま差し入れられたヤカンを餓鬼の様に奪い合って 貪り飲んでおきながら


「あのお茶が腐ってたんだ」


とは、よく言えたもんだと思ったけど 人の口とはそういうもんなんだな。


何も知らないA子は翌日もヤカンに麦茶を入れて運んできたが 前日とはうってかわった様に冷淡な野球部員達の対応に


「え? なに? 昨日はあんなに喜んでくれたのに…」


と、戸惑う


「昨日、何人かが飲んだ後 腹を壊した奴が結構いて それがお茶のせいだって思ってんだよ」


僕がそう言うと


「何それ? 頭にくるなぁ…」


と、怒って帰って行った。


で、その日 練習を終えて帰宅してみると我が家では 何故か、B子やB子の両親が来ていて


「今日、B子の足からギプスが目出度くはずれたけん、お祝いのジンギスカンちゃね」


と、B子の親父は上機嫌。


いつもの様に親父達は酒を浴びる様に飲みながら談笑する中、B子や僕、それに僕の妹は満足するだけ夕飯を食べると その宴会の席から抜け…


そんなB子が帰りがけ


「さっき、A子から電話で話を聞いたんだけど…

 野球部の連中、A子に腐ったお茶を飲まされた…って言ってるんだって?」


落ち着いてはいるが、ともすれば殺気をはらんだ様な言い方で僕に聞く。


今まで、何度も記した事だが それまでほぼ一年 僕はB子とほとんどまともに会話した事、いや、会話をして貰った事が無い。


にも関わらず、ようやくまともに会話してくれた最初が殺気混じりとは皮肉な話だ。


「偶然か否かはともかく レギュラーの大半が腹を壊して便所に走ったからね…」


と、僕が言うと 再び、B子は殺気をはらんだ物言いで


「ったく、調子の良い連中ねぇ…」と。


たしかに、僕もそう思った。


だから、A子やB子が怒るのも当然だと思ったし、否定する気も、弁護する気なんかもサラサラ無い。


でも、それ以上にその時のB子の秘めた恐ろしさを垣間見て ビビッた。


「で、ブタネコ君は A子のお茶をその時に飲んだの?」


「うん」


「お腹は? お腹は壊れたの?」


「いや、まったく… いたって快調。」


「ふぅん… それは良かったね…って言いたいところだけど、

 それなら、お茶のせいじゃ無いって ちゃんと否定してくれたんでしょうね?」


B子のその一言がグサッと胸に刺さった。


だって、僕は「お茶が腐ってたんだ」と言い合うチームメイト達を不快に感じても それを窘めたり、否定もしてはいなかったからだ。


僕の反応に一瞬で答えを察した様にB子は


「それじゃぁ、本当にA子が可哀相で救われないね」


そう言って、自分の家へと帰っていった。


お駄賃

 気が向いたら…で結構です。^^;

 この記事への御駄賃がわりに下のバナ-のいずれかを クリックして頂けると嬉しいです。^^
 (全部、クリックしてくれると もの凄く嬉しいのは事実です。^^)

ブログランキング・にほんブログ村へ Blog Ranking 人気映画・TVBLOG blogram投票ボタン BlogPeople「自分のこと」部門にクリック BlogPeople「テレビ」部門にクリック BlogPeople「映画」部門にクリック

『A子の話』関連の記事

コメント

何度読んでも 最後が怖いです。


この次 読みたいような 読みたくないような

読みますけど^^;

★ 虎馬 さん

>読みますけど^^;

義理か?

<以下、私信>

御推薦の映画が北海道で上映されるのを待っているところです。


【※注意!!】

この記事は『ブタネコのトラウマ』の倉庫に保管されている記事なのでコメントの投稿は出来ません。 2015年2月10日以降 このクソブログは『ブタネコのトラウマ・リニューアル版』に移転しましたので新規記事更新及び、過去記事へのコメントの受付もそちらで行っておりますので お手数ですが、そちらへの移動をお願い申し上げます。