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2010年09月01日

● O弁護士の遺訓(3)


私が初めて喫茶「職安」に”腕力だけが取り柄の歯科医”から教えて貰った場所を頼りに行った時のことは今でもハッキリと覚えている。




4月とはいえ まだ、桜が咲く時期には程遠く 雪解け直後の、しかも当時はスパイクタイヤが当たり前だったから 後に「粉塵」と呼ばれた砂埃の様なものが至る所に堆積した まぁ、当時の札幌の小春日和らしい日だった。


その喫茶店には よく見かける様な「来夢来人」とか「街角」とかありきたりな名前ではなく横文字をカタカナにした 見た瞬間に「あぁ、それはね」と理解出来ない名前が看板に描かれていたが そんな事はどうでもいい。


いたって平凡な 商店会には決まって必ず一軒はあるようなけっして華美でも質素でもない店構えだった。


物凄く印象深かったのは 店のドアを開けて中に入った時に聞こえてきた


「いらっしゃいませ」


という女性の声(後に、それがママの声だったと知るのだが)が それまでどんな映画やTVでも聴いた事が無いくらいの艶っぽさだった事と 既に店に入っていた客達が その声を合図に一斉に入ってきた私達学生に目を向けたのが その客達の風体が異様にガラが悪く、「え? ここヤクザの事務所?」と後ずさりしたくなる雰囲気のギャップだった。


「あら? もしかして@@(”気の弱い弁護士”の本名)クンや¥¥(”腕力だけが取り柄の歯科医”)クンのお友達?」


艶のある天使の様な声の持ち主は土下座したくなるぐらいの美人(後に、それがママだったと知るのだが)で 私達は声も出せず、ただコクコクと頷くだけだったが


「あらぁ、嬉しいワァ お姉さんサービスしちゃうから どうぞ、そこの席に座って」


矢継ぎ早に促され席に座る4人の高校生。


もう一人の やはりこれまた美人のオネェサン(後に、それがママの妹だと知る)が運んできた水の入ったコップを受け取り、それを口にすると ほんのりとした酸味と柑橘系の香りに「ん?」と思うと


「あ、それね レモン水なの」


今思えば、この店はいろんな何かが普通の喫茶店では無かった。


札幌市内でも1・2を争う高級クラブで さらに1・2を争うホステスさんだった癖が全く抜けていなかったのだ。


こう言うと怒られるかもしれないが 商店会の魚屋や肉屋の親父にレモン水なんか出したって


「酸っぱくねぇか? この水、腐ってんじゃねぇか? お?」


と、違和感丸出しだったと思うのだ


ところが、その店の常連客の大半は ママがホステス時代の贔屓の客だったから、当然 高級クラブにも行きつけており、むしろレモン水ぐらいが出てきて当然みたいな感覚の持ち主ばかりで 店の中と外の次元が違いすぎたのだ。


そんな違和感とレモン水の香りに包まれた私達を一瞬で現実に引き戻したのは 奥のボックス席から店中に響き渡る重低音の声で


「セイガク(学生)にレモン水は贅沢だろママ 鉄管ビール(水道水の事)で充分だべや」


それが私と運送屋のN専務の初めての出会いだった。


「御注文は?」


そうママに聞かれ


「すいません、カレースパゲッティってあるんですよね? 僕、それ…」


「あ、俺も」


数分後には4人それぞれが カレスパを食い、コーヒーを飲み 食後のタバコを満喫していた。


で、いざ腹がこなれて落ち着くと 先に来てるはずの”腕力だけが取り柄の歯科医”や”気の弱い弁護士”の姿が店の中に無い事にようやく気づき


「あの? @@(”気の弱い弁護士”の本名)や¥¥(”腕力だけが取り柄の歯科医”)は 来なかったんすか?」


と、ママに聞くと


「おぅ、@@は藻岩山に芝刈り、¥¥は豊平川に洗濯に行ってるぞ」


ママの代わりに再び奥のボックス席から重低音の声がして、その台詞に他の店内にいたオッサン客達が一斉にゲラゲラと笑った。


そして、カウンターに座っていた一人のオッサンが私達の座っていたボックス席に振り向き


「君達、暇か? 2人でいいんだけど夕方までバイトしないか?」


と言う。


後に、”某国立大学理工学部教授”、”一級建築士の資格を持った詐欺師”と呼ばれる二人が それに対して即座に反応し


「え? どんなバイトですか?」


「俺のトコ酒屋なんだけどさ ススキノのスナックとか飲み屋専門の配達が今日急に休んじゃってて…

 どう? これから夕方まで一人3000円出すからさ」


二人とも即座に「やります」


その当時、高校生のバイト代なんて 時給300円で「オイシイなそのバイト」と言われた時代だったから、数時間で3000円なんて破格もいいところ


が、何故 そんなに破格だったのかは 翌日、そのバイトをした二人が下半身筋肉痛で動けなかった事から「なるほどな」と理解される。


ススキノには6・7階建ての雑居ビルが多く 時にはビールの入ったケースを担いで階段を上がらなければならず、それらに入った細々したスナックや居酒屋は6時頃から店を開ける為 その前に配達しなければと時間の制約もあったのだ。


「ホント? やってくれる? 助かったぁ」


その男に連れ去られる様に高校生二人が消えた。


すると今度は 違うオッサン客の一人が


「なぁ、君らは夕方まで俺のトコのバイトしないか?」


その人は市内で個人経営ながらもそこそこ大きな規模の店舗を構えた本屋の親父で倉庫に溜まった売れ残りの本を返本する荷造りをして欲しく バイト代は2000円だが、欲しい本を1冊ずつオマケでくれると言う。


当時、横溝正史先生の書物や歴史小説を貪る様に読んでいた私は「本が貰える」というオマケの条件に 即座に「やります」と応え、二代目開業医も同様に欲しい本があったらしく「あ、俺も」と


段ボール箱で20箱以上あったと記憶するのだが それらの返品本のリスト造りと荷造りを終え


「丁寧に頑張ってくれた御礼だよ」


と、一人一冊のハズだったオマケも2冊ずつ しかも千数百円のハードカバーを貰って喫茶店に車で送ってもらった時には陽は既に完全に沈んでいた。


店には相変わらず奥のボックスに貫禄のあるオッサン(N専務)と不気味な爺さんが座って将棋をさしているだけで 他に客はいなかった。


本屋の親父に車で送ってもらった私と二代目開業医にママが


「どう? 疲れたんじゃない? アイスティいれたげるから飲んで行きなさいよ」


美人のママにそう言われて断る私達では無い。


その時のアイスティは 本当に心の底から美味かった。


紅茶と言えばリプトンのテイーバッグしか知らなかった私に「ダージリン」とか「オレンジペコ」とか紅茶にはいくつも種類がある事を初めて知り、


「アイスティはアールグレイに限るのよ それ以外は問題外」


と、ママは言った。


それ以来、今日に至るまで 私はアールグレイ以外のアイスティは飲まないと決めている。


やがて、アイスティを飲み終えた私と二代目開業医は 家に帰ろうと思い、何の考えも無しに


「すいません、お勘定ナンボですか?」


と、ママに言った。


するとママは


「昼間のカレスパとコーヒーなら アナタ達がバイトした本屋さんが払っていったわよ

 そのアイスティは 私からのプレゼント、だからお金はいらないわよ」


と応え その言葉を合図の様に奥の席から重低音で


「お? 帰るのか? だったら、これ持ってけ」


貫禄のあるオッサンが席から立ち上がり私達の方に1000円札を一枚差し出した。


「え? なんすか?」


私が聞くと


「いや、タバコ一個プレゼントって約束だからよ これで二人でそれぞれ自分の好きな銘柄買ってくれ」


と、運送屋のN専務は言う。


けどね、何故か、私はその時に急にヒネクレ者の思考が頭を支配し 見ず知らずのオッサンから理由もなく1000円貰うのが潔しとは思えなくなったんだな…


「あ、バイト代も頂きましたし 僕らはオマケに2冊づつ欲しい本も貰いました

 昼間の美味しいカレスパやコーヒーも御馳走になってますんで充分です。」


一言一句そうだったかは自信が無いが 私はそのように言って断った。


するとN専務は


「いや、これやらねぇとよ 俺は嘘つく事になっちゃうからなぁ…」


と、困り顔


その困り顔を見た時、「あぁ、この人は怖そうに見えて 実は凄ぇ良い人なんだな」って気がした だから、


「またこの店に来て タバコ吸っても良いですか?」


私はそう聞き


「おぅ、もちろんいいとも いつでも来いや」


苦笑いみたいな表情でNさんは応え


「じゃ、その時にタバコ銭が無かったら たからして(奢って)ください」


今思えば、本当になんでそう言ったのか自分でも判らないんだけど、そう言った事だけはハッキリ覚えている


後で聞いて判った事なのだが その日、我々よりも先に喫茶店に着いていた”気の弱い弁護士”は 喫茶店の傍にあった仕出し屋で弁当を詰めるバイトを、”腕力だけが取り柄の歯科医”はガソリンスタンドを手伝いにかり出され やはり、それぞれが破格のバイト代を手にしていた。




最初の脳梗塞の発作で寝たきりになってはしまったが、言語障害だけは免れたお陰で 弁護士のOさんはいろんな話をしてくれた。


「オマエ達、特に”気の弱い弁護士”と”腕力だけが取り柄の歯科医”が

 最初に喫茶「職安」に来た時の事はハッキリと覚えている。


 あの頃、職安の常連だった連中は みんな高級クラブに毎日通いつめるぐらいの金を持ち

 それぞれがそれなりの店や会社やステータスを持っていたんだ。


 それも、それまでに皆がむしゃらに働いたからこそ、それだけの地位や財産を持っていたんだ。


 でも、その代わりに皆 いろんなモノを失ってもいたんだよな

 ある者は家庭を壊し、ある者は友達を失い、ある者は守銭奴呼ばわりされ…


 気がついてみたら、俺(弁護士のOさん)もN専務も 子供どころか女房もいねぇ独り身でよ


 自分の娘みたいな年頃の喫茶「職安」のママに熱を上げるのだけが唯一の生き甲斐になっちゃってたんだ


 「屯田兵の御隠居」がな、そんな俺らを見てさ ”オマエ達には若さが無ぇ”って

 よく怒ってたんだ。


 だから、”若さ”を取り戻すには若者と交われ 朱に交われば赤くなる…ってな

 なんか方法を見つけて 喫茶「職安」に若者が集う様にせにゃいかん…とも言ってたな


 だから、格好のカモだった”気の弱い弁護士”と”腕力だけが取り柄の歯科医”に甘い汁を吸わせたんだ


 実際、それぞれの常連のところで継続雇用は出来ないけど 短期的、瞬間的にバイトが欲しい場面は

 沢山あったけど、そう簡単に手っ取り早いバイトが見つけられなかった…なんて事情もあったし

 何よりも、今だから言うけど「屯田兵の御隠居」がオマエ(私)との第一印象が相当気に入っちゃってさ

 だから、オマエ達に裏仕事も手伝わせる羽目になったんだ」


                                         ---- 続く ----


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コメント

ブタネコさんへ
大好きなシリーズが始まりましたね、毎日楽しみにしております。つくずく思うのですがブタネコさんの仲間たちとその周りの大人たちのお話は本になりますよ、北海道版青春の門’です。九州の’青春の門’より面白いと言うか、ためになります。まだまだ引き出しはお持ちのようでこれからも続けてくださいね。

★ タンク さん

そんな立派なシロモノではありません。^^

「ウソ臭い作り話」程度に読み流して頂ければ幸いなんです。


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