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2009年07月27日

● フルートの話(その2)


蛇の道は蛇…なのだろうか^^




数年後「ビニ本」と呼ばれ 世の若者達が群がった書物を専門に扱った書店の存在は 親分の運転手が熟知しており、研究熱心な修学旅行生5人を引き連れて店へと向かっていった。


一人、私は親分とお付きの若い衆との3人で彼等とは別行動となり 親分の案内で


「だったら…、まずは この店がお薦めだな」


という古本屋へ向かう。


たしかに、そこは横溝正史関連の古本の宝庫で その時点では角川文庫にラインナップされていなかった(数年後、金田一耕助シリーズがブームとなり それらの著作は続々と文庫版に復刻された)作品が並んでおり…


その中から どうしても入手したかった数冊と持ち合わせた予算の中でチョイスし、購入したのだが 私がどの本を選択して買うのかを親分はジッと眺めており、私がレジで会計を済ませると 私の後から、同じ様に一冊購入し、


「他の連中が来るまでは まだ、しばらく時間がかかるんだろうから

 待ち合わせの場所(喫茶店)に行って アイスコーヒーでも飲もうや」


と、私を促す。


で、喫茶店に着き 注文を済ますと、親分は自分が買った本を袋から取り出し


「オメェさんの本選びを横から覗かせてもらっていたけどよ…

 アンタ、相当 横溝正史のファンなんだな^^

 選んだ本は、どれもこれもファンならではのモンだったんで感心したよ。


 しかし、アレだ…

 コイツを買わなかったのは小遣いが足らなくなっちゃうからなんだろ?

 まぁ、これも何かの縁だ 同じ、横溝ファンのお節介でプレゼントすっからよ

 ファンなら、この本は絶対に持ってかないと嘘だからよ^^」


そう言って、取り出した本を私に差し出した。


見ると、その本は 最後まで迷った一冊で私としては欲しかったんだけど、持ち合わせが心許なくて買うのを見送った本。


「親分さんも横溝ファンなんですか?」


ビックリして聞くと


「おぅ、悪いけど オイラぁ横溝正史の本は捕物帖まで全部持ってるぞ

 懲役行ってる間、ずっと唯一の楽しみは横溝正史の本を読む事だったからナァ…^^」


「へぇ、そうなんですか?」


「ところがよ、寄せ場(刑務所)で読んでたのは単行本とか文庫本じゃなくて

 ”宝石”とか”新青年”って雑誌だったから 時々、間の巻が抜けててよぉ

 ”獄門島”なんかオメェ、肝心な最後の”犯人は…”のところの巻がゴッソリと抜けてやがって

 面会に来たカミさんに”頼むから続きを買って差し入れしてくれ…”なんてな^^


 だからオメェ 懲役済ませてシャバに戻って直ぐによ 今日のオメェと同じで

 この神保町に出張って、読めなかった続きや まだ読んでないのとか探しまくって…


 アンタ見てたら、その頃を思い出して泣きそうになったぜ^^」


「”獄門島”のラストが判らない…って そりゃキツいッスね?」


「おうよ、懲役で何が辛かったって それが一番辛かった(大笑)」


親分は 今に至るまで私が知る人物の中で最高の横溝フリークだった。^^


高校生という洟垂れ小僧の私を相手にスケベ学生5人達が合流するまで、時間いっぱい 親分の横溝論を拝聴した。


「オラぁ やっぱ、”悪魔が来りて笛を吹く”が最高傑作だと思ってんだよ」


その時に、親分が展開した持論を私は今でも忘れていない。


「殺人ってのは そりゃ、許されない犯罪だわな…

 でもな、”怨みが高じての復讐”なんてのは 大昔から数え切れないぐらいに起きている事だし、

 ”敵討ち”ともなれば、美談として語り継がれている話が少なくないよな?

 例えば、忠臣蔵って話は 未だに語り継がれて、毎年12月14日の前後になると

 TVドラマや映画が公開されて、多くの人がそれを見て ラストの吉良が殺されるのを見て

 みんな”よくやった!”って泣くんだろうね?


 例えば、通り魔に女房や子供を殺された亭主が その犯人を殺したとする。


 女房を殺した犯人も その犯人を殺した亭主も どっちも殺人犯って呼び名は同じだけど

 罪の重さも同じなのかね? 


 日本の法律じゃ、どっちも”殺人罪”として同じ扱いなんだよ。


 でもな、世間の中には 亭主に同情する人も少なくない

 だから、法律には”情状酌量”って匙加減があって それによって減刑されたり、執行猶予なんて事もある。

 どっちも殺人犯って呼び名は同じなんだから、罪の重さも同じだ…って主張する法学者も現実に存在する。


 これってさ、法律の中に潜んでいる大きな矛盾のひとつなんだよ。


 オレらはヤクザだからよ、世間なんかより もっと極端なんだわな…

 法律よりも大事なモンがあって、例えば 女房や子供が殺すまではされなくても

 ボコボコに殴られた…ってだけで 平気で相手を殺しに行くんだ。


 そんな俺らでもさ、殺人犯の言い分が全て正しいとは思っちゃいねぇんだ

 特に、ほら 最近流行の社会派ミステリーってやつ それに出てくる犯人の動機なんて

 全然、説得力なんかありゃしねぇ。^^


 ま、近頃のTVや新聞を賑わせる事件の犯人なんか 隣のピアノが五月蠅かったんで殺しちゃいました

 …みたいな なんだそれ?って動機が多いから まさに社会派ミステリーの方がリアルなんだろうけどよ^^


 それだけに、横溝正史の方が オレらにゃ、物凄い説得力なんだよな 特に犯人の動機がな。」


後で聞いた話だが、この親分は戦後間もなく闇市の利権で愚連隊とトラブり 日本刀をぶらさげて相手の溜まり場に殴り込み、相手のリーダー格の片腕を叩き切って懲役に行った人だそうで…


その業界の倫理観が一般とかけ離れている部分が在る事を考慮しないといけないが、親しい友や それ以上に家族や彼女が万が一…と考えると、正直言って オレもやっちゃうなぁ…なんて思ったから 言いたい事はよく判った。


スケベ学生5人組と合流し、時間も頃合いと喫茶店を出ると


「いやぁ、なかなか横溝正史を語れる相手がいなかったからなぁ…

 今日はオメェのおかげで愉しかったぜ」


上機嫌の親分さんは 喫茶店を出ると、数軒隣の楽器店の前まで私を連れて行き ウィンドウ越しにショーケースを指さすと


「おう、オメェなら 俺がアレを欲しいと思っている理由が判るだろ?」


と言う。


なので、親分が指差す先を見ると そこには


金色のフルートが飾られており「総14K製 ¥3500000-」という値札


「”悪魔が来たりて笛を吹く”ですね? でも、350万ってヘタな車よりも高いんすね」


私がそう応えると 親分は


「そりゃオメェ 総14金だぜ、銀じゃねぇんだ それぐらいして当然だわな」


と、笑う そして、


「ひと仕事して儲けたら アイツを絶対に買おうと決めてんだ」


と、さらに愉しそうに笑った。


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