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2009年01月29日

● 米屋の息子のE


中学の同級生で米屋の息子のEについて語ろうと思うのだが、まだ『お弁当』という記事を未読の方は それを先に御一読願いたい。




高校3年の秋だった。


私達、喫茶「職安」のバイト学生は いつもの様に運送屋のNさんから


「今晩、”夜逃げ”やるから頼むな」


と言われ、夜の8時過ぎには喫茶「職安」に集合して待機していた。


で、いつもの様にNさんの会社のトラックが迎えに来て 我々は荷台に載り、目的地へと向かう。


ところが、その日に限って 着いた先を知って私や二代目開業医 それに、「一級建築士の資格を持つ詐欺師」と後に呼ばれるメンバーの一人などは呆然とした。


というのも、着いた先で目の当たりにしたのは 我々と同じ中学に通っていた同級生の家


そう、E君の実家である米屋だったからだ。


慌てて、その事を運送屋のNさんに話すと


「え? オマエ達 ここの倅と同級生なの?

 あちゃ… でも、今更変更するわけにはいかないからな…


 いいか、オマエ達。

 たとえ、顔見知りの倅と顔を合わせても 今日だけは出来るだけ口を利かずに

 黙って作業に専念して 積み込みをとっとと終わらせろ いいな?」


と言う。


まぁ、夜逃げのケースの場合 その家の住人がいても大半の住人は我々作業員とは口を利かない人が殆どで その時も、E君を含めてE君の家族達が我々に話しかける事は無かったが、私や他の同じ中学だったバイト学生達は 当然、E君と嫌でも目が合い こちらからかける言葉も見つからずバツが悪いばかり。


やがて作業が終了し、Nさんが屋内を点検していた時の事。


何処からかE君が現れてNさんに話しかけた。


「あのぅ? この家と土地は直ぐに誰かに転売しちゃうんですか?」


「買うって人が現れれば 悪いけど、直ぐにでも売っちゃうよ」


ぶっきらぼうにNさんが応えるとE君は


「何年かかるか判らないけど 俺、絶対に金を作りますから

 もし、売れてなければ俺に売ってくれますか?」


と言う。


それに対してNさんは


「売れてなければな、でも、約束は出来ないぞ」


と冷たく言うとE君は そのまま黙って空き家となった屋内を見つめていた。




後で聞いた話によると…


「屯田兵の御隠居」と呼ばれた喫茶「職安」の常連の頂点に立っていた爺様が 生前に或る人物に金を貸していた。


その人物は材木屋を営み、そこそこ繁盛していたが 札幌オリンピック以降、札幌の人口が急増して宅地開発が盛んになったのと同時に 家屋の建築方式が木造から無落雪などのコンクリート系建材のブロック工法が盛んになるなどで売り上げが低迷しているところに 放火の可能性が高いとされる原因で店や倉庫が焼失した。


しかも、保険の契約が不備で保険金が下りず 結果的に破産となる。


E君の米屋は その材木屋と隣接していたから、材木屋の出火の際に巻き添えとなり家屋が半焼 しかも、材木屋が屯田兵の御隠居から金を借りる際に保証人となっていた関係もあって頓挫したのだ。


材木屋と米屋が破産した時、屯田兵の御隠居は既に他界しており 後を任された運送屋のNさん達は 他の債権者達に先んじて材木屋と米屋に協力させて回収する代わりに 材木屋の家族と米屋の家族を夜逃げさせて 当面の他の債権者達からの取り立てから防いでやろうとしたのだった。


E君達の家族は親戚の漁業を手伝って暮らす事になり、道内のとある港町へと移り住んだ。


その時の事は 我々バイト学生にとっていろんな教訓となった。


「保証人」「金の貸し借り」「保険契約」…




10数年が過ぎ、我々、元・バイト学生は30代に達し 世の中はバブル景気で浮かれていた。


元・バイト学生達は それぞれが家庭を持ち、資格を取り、そして私はNさん達の跡を継いで屯田兵の御隠居の遺産管理を任されていた。


もし、我々が屯田兵の御隠居の遺産である不動産を用いて バブル期に当たり前の様に行われていた土地転がしをしていれば おそらく資産は10倍以上に膨れ上がっていただろう… が、それまで一円も無かった借金は資産の数倍以上の額になっていただろう。


師匠であるNさんは


「俺達は不動産屋じゃねぇんだから 意味の無い土地や建物を売買する必要は無いし、

 仲介手数料目当ての商売なんかする必要は無い。

 ましてや、その為に借金なんかするのは愚の骨頂だ」


と言い、そうする事を我々に命じ、結果的にバブル崩壊の洗礼を浴びずに済んだのだが…


そんなある日の事。


突然、E君が「腕力だけが取り柄の歯科医」の許に現れ Nさんに会いたいと言い Nさんと私、それに「腕力だけが取り柄の歯科医」とE君の4人が一同に会した。


E君は10数年の間に漁師を主に、いろんな仕事を同時にこなして現金で2000万円を用意しており、Nさんに昔、米屋だった土地を買い戻させて欲しいと言った。


米屋だった土地は バブル景気で買い手がいくらでもあったし、土地の価格自体もNさん達が所有した時の頃より2倍近くになっていたのだが、近隣に乱立したマンションが住居数の1/3も駐車台数を確保しない物件ばかりだったので それらの住人達への駐車場としての需要で それなりに収支が黒字だった事もあってたまたま転売されずにいたのだ。


NさんはE君の申し出に対し


「たしかに、あの土地を手に入れた時は 2000万の債権に対するカタだった

 けどね、今 あの土地の実勢価格は倍の4000万

 しかも、バブル景気の御時世だから その気になれば5000万で買う奴もいる

 申し訳ないが、せめて最低でも4000万用意してくれないと売る事は出来ないんだ」


と応えた。


そういうNさんの回答を冷たく感じる人も多かろうと思うが、不動産取引に明るい方なら容易に御理解頂けるであろうけど、簡単に説明すると…


景気による実情で5000万と言っても 実際にその土地は駐車場として収支が黒字の収益をあげている場合、営業補償などプラス要素が加味して 当時の売買から言えばNさんが言った4000万という実勢価格の提示は破格の値段と言って良い。


結局、E君とNさんの話は物別れに終わり その時にE君は買い戻す事が出来ずに終わったのだが、Nさんはその後


「たいしたもんだなぁ… 10ねんちょっとで2000万も作ってくるとは」


と、E君の事を感心していた。


で、そのE君は2000万円を元手に商売を始め それから1年も経たぬ間に今度は5000万円を用意して 再度、Nさんに買い戻させて欲しいと申し込んできた。


すると、Nさんは「うん、いいよ」と即座に応じ ようやく土地はE君のもとへと戻り、E君は そこに家を建て、家族を呼び戻したのだが…


「1年もかからないで5000万持ってくる…って凄いな」


と、私が言ったのを聞いてNさんは


「知ってるか?

 無理をして自宅を構えたり、自社ビル建てると

 不思議とそれがキッカケで家庭や会社がおかしくなる…ってジンクスがあるんだ


 この御時世(バブル景気)だからな 銀行は簡単に金を貸してくれるけど

 そのぶん、デタラメな金利だからナァ…」


と、Nさんは言った。


数年も経たぬ間にバブルは崩壊し E君が興した事業もあっと言う間に潰れた。


E君は破産同然となって間もなく


「なんとか、少しでも金を残す手はないか?」


と、私を訪ねてきて相談し それに対して私はちょっとしたテクニックを伝授して数百万程作る事は可能だと応えたが、即座に現金化する事は難しいよと話すと


「そっか、いや それで充分だよ

 じゃぁ、オマエを信用して必要な書類を預けていくから

 金が出来たら その金を他の誰にも内緒で こっそり(E君の)妹にやってくれないか

 妹にだけはさ なんぼかで良いから迷惑をかけたぶん少しでも金を残してやりたいんだ…」


と、言い 静かに笑って去って行った。


そして、それが私とE君の最後の会話となった。


E君は 私と会話した後、「腕力だけが取り柄の歯科医」を訪ねて小一時間話した後、そこからの行方が誰にも判らない。


1ヶ月ほどして ようやく私はE君に話した通り、債権整理して隠し残した数百万をE君の妹を秘かに訪ねて渡したところ 妹のところにE君から遺書とも受け取れる様な内容の手紙が ちょうど、私や「腕力だけが取り柄の歯科医」と最後に会った日の消印で投函されていて それ以上の詮索をする気にはなれなかった。




E君がいなくなってから さらに10数年が過ぎた頃…


たまたま、その時に関わっていた債権整理の関係で競売の公示情報を眺めていたら 昔、E君の実家である米屋があった土地を巡り巡って所有した誰かが E君が建てた家を取り壊して別の家を建てたはいいけれど、その人も何かの事情で失敗したらしく 土地と新しい建物が競売に出されているのを発見した。


で、申立人が知古の某銀行だったから そこの知り合いに電話して


「~の物件 いくらで売るの(売れればいいの)?」


と、聞いたところ


「出来れば、1700~1800万ぐらいで」


という回答を耳にした時


「E君 今なら2000万でお釣りがくるぜ」


と、世の巡り合わせの不思議を痛感した。


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