● 悪人
吉田秀一:著「悪人」を読んだ。

朝日新聞社:刊 ISBN978-4-02-250272-8
先日、「ぱんだな生活♪読書日記・たまに素日記」の主宰者:すももさんから 私のとある記事に頂戴したコメントをキッカケに 書店に行った際に買い求めてきた。
残念ながら 私は今まで「吉田修一」の著作を読んだ事が無い。
調べてみたら かつてクソドラマと酷評した事のある「東京湾景」の原作者だと知ったが、どうやら ドラマは原作をかなり弄って映像化したらしいので ドラマの酷さを原作や原作者に投影するのは止めようと心がける。^^;
で、まず笑ったのは
今 私が一番出会いたい本は それ一冊で魂が揺さぶられる様な傑作
と、述べた私に この本を「すもも」さんは御紹介下さったのだが、上の画(本の表紙)の赤い帯を御覧頂きたい
「魂を揺さぶる人間ドラマの傑作」
まんまじゃん^^ > すもも さん
【注意!!】
以下の文章には「悪人」の内容のネタバレが多分に含まれております。
ゆえに 出来れば購読の後、以下を読み進められる事を希望します。
では 本題。
敢えて登場人物名を使用しないで 読んだ人にだけ判る言い方を用いると
「アウディの男」「スカイラインの男」「死んだ女」「詐欺に引っかかった婆さん」…
こういったそれぞれの登場人物に似た境遇や 似た性格や 似た環境の人物を知っており、もちろん殺人を犯したり、殺された人まではいないけど
「あぁ、アイツみたいな奴だなぁ」
なんて思い浮かぶ登場人物に近い人物がいる。
それを称してリアリティと呼ぶなら それ以外の何物でも無いと思うわけで、たぶん、読者は そんな登場人物達の 少なくともいずれか一人に私と同じ様な
「あ、アイツ」
みたいな酷似性を感じ 読んでいる最中のリアル度が上昇するんだと思うのだが、問題なのは どの人物にリアル度を感じたのか?…で 読後の感想が大きく変わる様な気がする。
で、私流の個人感を述べると…
・峠で車から女を蹴落とすアウディ男の気持ちは物凄くよく判る。^^;
いるんだよねぇ… 時々、勘違いしちゃった女が。^^;
で、「物凄くよく判る」なんて言っちゃうと「このブタネコの最低野郎!!」と簡単に思われてしまうであろう事も理解して言うのだが、ちょっと金を持っていたり、ちょっと地位が高かったり、ちょっと有名だったり… だと、それに群がる蠅の様な輩が現実にいる。
・金持ちと一緒にいる事で金持ち気分を味わおう…
・ちょっと偉い奴と仲良くする事で虎の威を借りよう…
・有名人と仲良し…って事で優越感を味わおう…
結局、本人そのものと仲良くなりたいのではなく、金や地位などにしか興味が無い…それが判って、アウディ男が女を蹴落とすに至る描写は ささやかながら今までの私の人生の中で数多見かけた経験があり、蹴落とす様な真似を私もした事がある。
また、年頃の娘を二人持つ親父としては 床屋の親父の心情には大いに同感する部分が大きいが、私はアウディ男の様に 夜の峠で女を車を蹴落とす真似はしない代わりに、床屋の親父の様にスパナを放り投げたりせず 力一杯、後頭部に叩き込むだろうと思われる点で 一般的に言うところの記述に対するリアリズムは感じない。^^;
スカイラインの男の生い立ちが 彼の行為や行動をあたかも裏付け、情状酌量の余地を感じてしまう読者も少なく無いと思うが、私は ともすればこの男の様に前向きに生きるのでは無く、何かあれば自分の過去を同情の材料として引き合いに出す様な後ろ向き加減の思考が大嫌いなので同情も共感も抱かない。
が、へそ曲がりな私は このスカイラインの男がラスト間際で首を絞めようとした…という行為に関しては 単純に「殺人鬼だった」というのでは無く、もしかしたら不幸な女を絞め殺す事で救おうとしたんじゃないか?なんて思ったりする。
相手の女が その後、スカイライン男への気持ちがすっぱりと醒めた様になった事が意外だ…という感想もあるようだが、むしろ私は 殺せなかっただけで 結果的には女を救えて良かったね…と、スカイライン男に対して思った。
でね、読み終えて 一番考えた事は この本のタイトルにある「悪人」
つまり、この本に出てくる登場人物の中で 真の意味での「悪人」って誰?…って事。
一般常識で考えれば 犯人=悪人なんだろうけど、それ以外の人は善人なのか?
禅問答の様に聞こえるかもしれないが この本の中に出てくる人物達って よくよく見つめると善人は殆どいない様にすら私には思える。
例えば、被害者と同僚の二人の女性だって 仲良しのフリをしてるだけだった…みたいなところがあるし、床屋の親父をアウディ男の元へ誘う「アウディ男の親友」も 私には善意からの行動とは思えない
唯一、「こいつは良い奴だなぁ」と思えたのはバスの運転手ぐらいなんだよね
ただね、「善人じゃない」=「悪人」では無い。
極論すれば「善人じゃない」と感じたとは言え、登場人物達って 実は、我々の身の回りに沢山いる 言わば、「普通の人達」なんだよね。
で、犯人は殺人を犯している…という意味では たしかに悪人なんだけど、もし、私の勝手な想像が当たっているなら 一緒に逃げ回っていた女に対しては「善人」でもある。
この辺の機微が 実に何とも言えないブレンドが効いていて それがこの「悪人」という物語のティストなんだろうね。
というわけで 個人的結論を言えば、残念ながら この物語から「魂を揺さぶられる様な感動」を私は得られなかったが、しかしながら 読んで良かった… 間違い無く、そう思える一冊である事は確かだ。
