● 最終章 二代目開業医 vs ブタネコ
自宅に帰宅してみると 我が家の玄関先に見知らぬ車が停まっており…
「嫁の客でも来てるのかな?」
と、思いつつ 家に入ると、来客とは○産のEだった。
嫁が
「あら、ちょうど良いトコに帰って来た。^^
Eさんが お土産に「くるみや」のシフォン・ケーキを買って来て下さったから
みんなで食べようとしてたのよ」
見ると、リビングには娘や姪もいる。
昨日、会った時のEはヨレた格好をしていたが 今日のEは服装も見違える程パリッとして 昔ほどでは無いにしても、「熱い営業マン」らしい姿に戻っていた。
Eは私がリビングに入ると 立ち上がって深々と頭を下げ
「ブタネコさん 昨日はありがとうございました。
本当に、久しぶりに楽しい夜を過ごさせていただきました」
と、礼を言う。
「相当、盛り上がったみたいね^^;
参加者、殆どが今日 みんな二日酔いで寝込んでたぜ」
「いやぁ、皆さん 凄かったですもん
シャンパンタワーをやった後、シャンパンが入ってピラミッドみたいに積み重なったグラスを
”よぉし、早飲み大会だ!!! って、みんなで飲み始めて…
結果的に あれが効きましたね。^^;」
「ま、たまには そんな事も無いとね^^:
で?、今日は また、どうしたの?」
「いえ、夕べの御礼と それと御挨拶をしたくて…」
「礼なんかいらないよ^^ ん? 挨拶?」
「はい、自分 お陰様で決心がつきましたんで 今日、会社に辞表を出しました。^^」
「あぁ? 辞めるの?」
「ええ、辞めて 故郷で親戚がやっている牡蠣の養殖を手伝う事にしました。」
「おいおい、そりゃまた急だね…」
「いや、良い潮時だと思ったんですよ。」
Eは娘や姪に視線を移すと
「あの、ジャパンの時 奥さんが大きなお腹をしてたのを 自分、覚えてますよぉ…
よく、奥さんと一緒におられたブタネコさんの妹さんも 同じ様に大きなお腹で…
そのお腹にいた娘さん達が もう、こんな大人なんですもんねぇ…
あのジャパンの時は 本当に楽しかった…
あの後、何十台も車を売りましたけど、
あの時ほど充実感のあった時は一度もありませんでした。
夕べ、病院長さんや教授さんと話していて…
やっぱ、人生って楽しくないと 生きてる意味無いなぁ…って
目的も無く、魅力も無い職場にしがみついて終わるのは嫌になってたんですよね 昨日まで。
でも、夕べは本当に楽しかった…
だから、踏ん切りがつきました。」
「そっか…
まぁ、アンタが それで良しなら それで良しだろうさ^^」
そこへ、コーヒーをいれたマグカップと小皿に切り分けたケーキをトレイに乗せて 嫁が現れ…
「アナタ、そこの書類に目を通して 確認したら、ハンコを押してあげて」
と、言う。
すると、Eは
「いや、奥さん 一応、書類は作ってきましたけど…
今、ブタネコさんにも申し上げましたけど
自分、今月一杯で辞めますんで 自分から買っても意味が無いです…」
なんて慌てて応えている。
「なんだろう?」と 嫁に言われた書類を見たら それは車の見積書(兼 注文書)だった。
「アナタが出かけたすぐ後にEさんから”御邪魔してもいいですか?”って電話が来たのよ。
だから、トヨ○からのFAXを そのままEさんにFAXしてあげて
どうせ来るなら、Eさんとこで対抗できる車の見積を作って
ついでに持って来て…って御願いしといたの」
と、嫁はサラリと言う。^^;
私は見積書を手に取り 詳細を読みながら、
「この車のカタログ 持って来てる?」
と、Eに聞くと
「ええ、持っては来てます、
けど、アレかな…と思って 試乗車に乗ってきましたので現物が玄関先に…」
「あぁ、あそこに停まってたのが そうか…
(娘達に)オマエ達さ 玄関のとこの車、ちょっと見せて貰ってきな」
と言うと 娘と姪はそそくさと車を見に出て行った。
Eは それを見ながら
「いや、ブタネコさん 本当に自分から買って頂いても意味が無いっス。
どうせなら他から… 後々の事もあるでしょうし…」
謙虚に、そう言うEに 横から嫁が
「Eさん 気にしなくて良いわよ
この人、放っといたら 他の車屋さんで暴れ始めるから
そろそろ結論出して貰わないとウチが困っちゃうのよ^^;」
と、フォローなんだか 私への遠回しの忠告なのか判らない事を言う。^^;
だから、私は あえて聞こえないフリをして
「なぁ、このオプションに入っている”KAGAYAKI Edition"ってのは何?」
と、見積書を見ながら聞くと
「それはヘッドライトとフォグランプを特別装備に換えるプランで…
ブタネコさん、”特別装備”とか”限定”とか オリジナルに拘る人だから
付けとかなきゃマズイかなぁ…と思いまして
その下に記入した”HDDナビゲーション”ってのも”特別装備”で…」
Eは 痒い処に手が届く男だった。^^
なので、私はEに
「悪かったな、やっぱ、車の話はアンタに最初にすべきだった。」
と、頭を下げた。
「勘弁して下さいよブタネコさん… 自分は…」
と、Eが何か言いかけたところに 娘と姪が戻ってきて
「あの車、試乗車なんですよね? 乗らせて貰ったらダメですか?」
と、聞くので
「どう? 気に入ったか?」
と、私が聞いたら
「ウン」と 二人とも頷いている。
なので、私はEに
「な? 決まり…って事で アンタから買うからよろしくね^^
でも、いくつか修正してもらわんと駄目だけどな」
すると、Eは しばらく腕組みをして何かを考え
「でしたら、自分も御願いがあるんですけど…」
と言うので「何?」と聞くと。
「ブタネコさんの会社って 横浜に支社とか子会社とか社宅とか、
要は、車庫証明を登録できる場所が 何処かありませんか?」
「あるよ」
「実は 自分が○産に入って 一番、御世話になった先輩が横浜にいるんです。
なので、いっそのこと全部、自分が仕切りますから その先輩から買って貰えませんか?」
と、言う。
「そしたら、”俺(ブタネコ)”が買うんじゃなくて
ウチの会社に買わせれば良いだけの話だから 別に構わないけど なんで?」
と、聞くと
「先輩への恩返し…って事にもなるし、
それよりも もう一つ心残りがスッキリするんですよ^^」
と、Eが言うので 尚更、理由が知りたくなって「なんで?」と聞くと
「昔、ジャパンの時にブタネコさん言ってたじゃないですか^^
これが”横浜ナンバー”だったら もっと、目立ってカッコ良いのに…って」
そう言われて、ふと、その時の情景が目の前に甦った。
横浜ナンバーのエリアに住んでいる方には迷惑な話だとは思うけど、若さ故に、ズブズブの田舎モノらしい そんな妄想に取り憑かれた時期が 私には確かにあったのだ。
「今度こそ、付けちゃいましょうよ 横浜ナンバー」
ニヤリと笑うEの瞳が潤んでいた。
思わず私も目頭が熱くなった。
「だったらさ、車のナンバー”あ324”にしてくれる?」
そう言う私の言葉に
「324… 誰かの誕生日とか、結婚記念日… あ! セカチュー?」
私はコクンと頷き
「ただの”324”だけなら 簡単になんとかなるだろ?
それじゃぁ、ダメ
ちょいと理由があってさ どうしても”あ”じゃ無いと絶対にダメ
どうだ? 出来るか?」
Eは とても嬉しそうに
「それが、ブタネコさんにとっての 今回のスペシャル・オリジナリティなんですね?
だったら、必ず、やってみせます。^^
うわぁ…、久しぶりに仕事が燃えるなぁ…」
と、語るので
「もし、横浜の先輩が ブツブツ言うようなら付帯条件も付けてやるよ」
「どんな条件ですか?」
「とある病院で救急車と介護車両を買い換えようとして トヨ○と話を進めてるんだけど、
その商談、そっくりそのまま そっちに投げてやる」
「とある病院って?」
「キミが 夕べ、一緒に肩を組んで”かたちあるもの”を泣きながら大合唱した医者の病院だよ^^」
すると、Eの目から ポロリと大粒の涙がこぼれた。
「ブタネコさん 自分、本当に これで死に花飾って故郷に帰れます。
つまんねぇ思い出ばかりの車屋人生になるところを
最後の最後に、良い思い出を作って幕を下ろせそうです。
本当に…、本当にありがとうございます。」
そう言って 深々と頭を下げ、しばらくの間 男泣きしていた。
やがて、娘達が再び戻ってくると
「運転もし易かったよ」
と、満足気。^^
「じゃぁ、ホラ 良い機会なんだから車体の色とか シートの種類とか、ついでに好きな様に選んじゃえ」
と、私がけしかけ 娘と姪はカタログを二人で見ながら「そっちが」「いや、コッチは?」と楽しいひと時を過ごしていた。
翌朝、私は 朝一番で「二代目開業医」の病院に電話をかけ まず、事務長に昨日のショー・ルームでの一件を話し、
「それでも、トヨ○から救急車と介護車両を買うのか?」
と、聞くと 事務長は
「いえ、奴(事務長の後輩)はウチの病院に出入り禁止にしますので 他のとこから…」
と言うので
「だったら、○産のEって営業を行かせるから そいつの話を聞いてやってくれや」
と、私が言うと
「判りました。 ただ、院長にはブタネコさんからも 一言、言っといて下さいね」
と言うので 電話を二代目に廻して貰ったところ…
「え? ○産のE? あぁ、いいよいいよ
アイツは ホント、なかなか良いよ
だってさ、一昨日のショータイムの時に アイツも「世界の中心で愛をさけぶ」ファンだって話で
みんなで盛り上がっちゃってさ、で、どのシーンが最高だ?って話しになったらさ
良いシーンは一杯あるけど 自分は4話のラストで緒形朔が
”夢から醒めても泣いてて”って言う
あのシーンを思い出しただけで泣けます…って
本当に そう言いながら泣いたんだぜ?
教授や弁護士なんか 一緒に貰い泣きしちゃってさ…
気がついたら「かたちあるもの」の合唱だよ^^
みんなで肩を組んで泣いちゃって…
ありゃぁ、良い奴だよ ウン、アイツは良い…
そっか… そうだよな、アイツ、車屋だもんな^^
良いじゃん 救急車も介護車両もアイツに頼んで 言い値で買ってやるよ ウン
あ!!、だったらアレか いっそのこと”世界の中心で愛をさけぶ”でホラ
6話の最初で スピンターンかます救急車、あれモデルにしちゃうか ウン
そうだよな、そうしてこそ 俺のセカチュー魂だもんな…
あ、そうだ、それが良いや………」
「二代目開業医」は まだ、酔っぱらっていた。^^;
『バカ親父の乱心』 ~ 完 ~


