● 犬神家の一族 2006年版
リメイクされた「犬神家の一族」を観てきた。
この作品に関して言えば、横溝正史の原作を読んでいるか否か、1976年の「犬神家の一族」を見ているか否か、石坂浩二では無く、他の役者(特に”古谷一行”や”稲垣吾郎”)が金田一耕助を演じた「犬神家の一族」を見ているか否か… もちろん、それらを殆ど見ているか否か… それぞれのスタンスで感想は大いに異なっても仕方が無いと私は思う。
もちろん、映像に関しては それぞれに出演している役者達のファン…なんて要素も絡めば 感想は もっと多種多様になるだろう。^^;
で、私は?と言えば おそらく、原作は無論の事、他の役者の金田一物の殆ども見ているというスタンス。
だから、今風に言えば コアな横溝ヲタ的なスタンスであると言う事を… ま、これはわざわざ断らなくても 今までのこのブログの記事を読んでいる人なら苦笑して頂けるであろう。^^;
と言うわけで、先に文句的感想を述べると…
まず、懸念していた 富司純子の松子だが、「威厳」という部分に関しては 予想外に及第点、でも、小芝居が下手過ぎで 総合的に落第^^;
佐清役の尾上菊之助に関しては 予想通り論外。
もうね、歌舞伎役者は歌舞伎だけやってろ… 菊之助に限らず、最近 映画に出演している歌舞伎役者系の連中の 殆どに私は そう言い切りたい。
台詞回しに歌舞伎口調が抜けず、随所に ただ「喚けばいい」みたいな 妙な熱さ、それは舞台の上で観客を相手にする時は それぐらいのオーバーさが逆に必要であり、重要なのは判る。
でも、この「犬神家の一族」の佐清は歌舞伎じゃないのだ。^^;
「犬神家」という富裕な家庭に育った ある種の「お坊ちゃん」であり、ビルマ戦線で多くの部下を死傷させたのが心に傷を作り、実家に戻るのを躊躇っていた純粋さや繊細を持ち合わせた青年… そこに”熱さ”や”歌舞伎口調”なんか必要無い。
そして、もうひとつ挙げれば やはり深田の女中「はる」はイタダケ無い。^^;
深田特有のポワ~ンとした雰囲気や台詞回しは 筒井康隆の原作あたりには適役かもしれないが、横溝には 必要無い。^^;
で、キャスティングに関して補足すれば 上記3つは不満足だが、竹子:松坂慶子 梅子:万田久子 この二人はナイスだった。
前作の草笛光子もけっして悪くは無いけれど、松坂と万田は 犬神家の一族の身内そのものであり、それぞれ犬神製薬の東京と大阪の支店長夫人としての 地位や富裕さや 強欲さが滲んでいて とても良かった。
さて、こういう作品 特に「犬神家の一族」の様な場合 例えば、「石坂浩二の年齢」とか 古谷一行をはじめとする他の金田一耕助を演じた役者と石坂金田一との比較…とかが 話題となる場合が多い。
ただ、金田一耕助の年齢を考えた場合…
多くの金田一フリークは「獄門島」の冒頭で 復員船の描写があり、その辺から金田一耕助の年齢を 昭和21年あたりで20代前半…と思い込んでいるフシがある。
しかし、「本陣殺人事件」での記述によると(第8章 金田一耕助の項 角川文庫p78~88) 本陣殺人事件が起きたとされる昭和12年頃 「見たところ25,6」という年齢設定となっており、いくつかの断片的な記述をかけあわせると 本陣殺人事件の起きた昭和12年よりも前に
・金田一耕助は19歳で上京し某私立大1年弱在籍した後、アメリカに渡った。
・いくばくかの期間を過ごした後に サンフランシスコである事件を解決し、
その時に久保銀造と知り合う。
・久保銀造が帰国した後、その後3年 耕助はアメリカに滞在した…
という記述から考えても 昭和12年頃「見た目」だけではなく 実際にも25,6歳という年齢設定と考えられる。
すると、「犬神家の一族」の事件が起こったとされるのが昭和24年の秋だとすれば 37,8歳ぐらいというのが「犬神家の一族」の時点における金田一耕助の年齢なのだ。
ま、石坂浩二の実年齢が65歳であるから、「石坂の年齢がね…」と批判的に感じる方が多いのも判らなくも無いけれど 65歳が37,8歳を演じるのが違和感というのならともかく、多く場合 65歳が20代前半を…という批判の仕方でモノを言ってる人が多いのには勉強不足と指摘しておきたい。^^
で、個人的感想を述べれば…
今回のリメイクが「何故、犬神家の一族?」という部分に 私としても私の中で理解出来る部分と 出来ない部分がある。
その「出来ない部分」を挙げるならば やはり、石坂の実年齢を考えると年相応の「病院坂の首縊りの家」など 金田一耕助の後期の作品の方が、もし、これが本当に最後の石坂:金田一となるのならば「病院坂の首縊りの家」で 今度こそ、後半の現代編をやって欲しかった…という気持ちが強い。^^
それと、もうひとつ 別な視点で言えば…
今回、「リメイク」ではあるけれど 多くのカット割りや台詞や、映画版ならではの原作とは違う表現などが 30年前の「犬神家の一族」と同じ事について 納得出来る部分と出来ない部分がある。
で、これもまた「出来ない部分」を述べれば わざわざ予算をかけ、それなりの役者を揃えて映画製作をするのに、何故 殆ど同じモノを作るのか?という部分が やはり、納得出来難い部分となってしまうところがあったのは事実。^^;
しつこいようだが、ここでもまた「犬神家の一族」では無く、まだ石坂浩二が演じていない金田一作品の方が…って気持ちが芽生えてしまう。^^;
でもね、そういう不満点は 挙げようと思ったら実はキリが無い。
だって、横溝作品は 本当に深い世界なのであり どんな優秀な俳優や演出家や脚本家が知恵を持ち寄っても たかだか2時間ちょっとの尺の中で その深みの全てを描くなんて絶対に無理なのだ。
だから、どうしても端折ったり 台詞で補ったりするしか無いわけで、そうなればなったで「原作とは違う」とか「このシーンはカットして欲しくなかった」と 原作愛読者個々の思いが分かれてしまうのだから^^
さて、私事なのだが…
私が 今年の夏以降、本当に心の底から見たかった映画が この「犬神家の一族」だった。
何故、そんなに見たかったのか?については 今までいろんな記事で語ってきたから敢えてここでは述べないが、結論から言えば 自分でも気づいて無かったのだが、その見たい本当の理由とは全て違った^^;
『雑感(10月2日)』という記事で 私は娘と姪から この「犬神家の一族」の前売り券を貰った事を述べた。
で、劇場封切り当初は 映画館も混むだろうし… 「何時、見に行こうかな」と ずっと考えていたのだが、よく考えてみれば20日以降になると学校が冬休みになり、映画館も人が増えるだろうし… そう考えると 今週の平日の昼間がベストだなと思ったのだ。
なので、先週のある日 嫁に
「ねぇ? 来週の平日のどれかの日の午後、”犬神家の一族”観に行きたいんだけど オマエ、暇な日無いか?」
と、聞いたところ
「火曜日なら良いわよ」
と、返事を貰っていた。
というわけで、嫁と二人で車で映画館に行ったわけだが…
「なんで私なの? 別に二代目開業医君や弁護士君あたりと行った方が良かったんじゃないの?」
行く道すがら 車内でそう聞く嫁に
「犬神家だけは オマエと一緒に観に行きたかったんだ」
と、応える私
まぁ、嫁も もともと映画を観るのは嫌いじゃないし 先日も映画を観るのに付き合ってくれてもいたし…
映画館と一体になった立体駐車場に車を止めて 映画館の入り口に歩いていたら
「あ、ポーチを車に忘れちゃった お財布も入ってるのよねぇ…」
と、思わせぶりな口調の嫁
「いいよ、俺は貰った前売り券で入るし、オマエのぶんぐらい俺が払ってやる」
と、私が言うと
「映画観た後の食事代も アナタ持ちよ」
と、言い切る嫁^^;
まぁ、そんな事は どうでも良い…
場内に入ると 客は幸いなことに疎らで、わりと良い位置で前後左右とも広めに開いている座席に嫁と並んで腰を下ろし まだ明るい場内照明の下で「犬神家の一族」のパンフを開く。
前回の佐清マスクは 少し怖い仕立てだったが、今回のは何かマヌケ顔だなぁ…なんて会話を楽しんでいたら 場内は暗くなり、宣伝や予告が流れ…
東宝のロゴが終わり いよいよ「犬神家の一族」の本編が始まると…
横たわった犬神佐兵衛翁と それを取り囲んで座る犬神家の面々…
やがて、意地悪そうな笑みを浮かべて佐兵衛が他界…
エヴァンゲリオンがパクリ、踊る大捜査線がさらにパクッたと言われる 独特のロゴ並びのオープニングと音楽…
それを観てたら 自分でも信じられないぐらい涙がこぼれた。
自分でもビックリするほど 熱くていっぱいの涙が頬を流れ落ちた。
ここしばらく、映像を観て泣いた映画は何本もあるけれど、オープニングで 滂沱の涙を流した事は無い^^;
でも、そんなに泣ける理由が私には 直ぐ判ったし、涙がとても心地良く だから、流れるにまかせて 拭わず、ビショビショの顔のまま、移り変わるスクリーンを見逃すまいと視線を宙に据えたままにしておいたら 二の腕のあたりをツンツンとつつかれ、そちらを見たら 嫁が片腕で頬杖をついてスクリーンを見つめたまま、私の方の手でハンカチを黙って私に突き出している。
数日前、一緒にスーパーに買い物に行った時、惣菜屋で美味そうな唐揚げを売っていたので 店員に
「おばちゃん その唐揚げ、500g頂戴、白黒じゃなくて カラーでね」
(上の文の意味が判らない方は 声に出して読んでみて下さい^^;)
すると、いつの間にか 私の傍から遠く離れて他人のフリをしていた嫁が、映画館では 黙ってハンカチを突き出す”優しさ”を見せており、それがまた 私の涙の量を増やした(ToT)
そう、30年前に高校生だった私と嫁は よく二人で映画を観に行っていたのだが…
「男はつらいよ」の新作が封切りされた時以外は いつも嫁(その当時は彼女だった^^;)が観たい映画がチョイスされていたのだが…
「犬神家の一族」の時は 嫁が「キャリー」か「オーメン」だったか たしか、そんな映画を観たいと言っていたのを
「ダメ、絶対 今日は”犬神家の一族”」
と、強くおしきって観たのだ。
その時とは映画館も違うし 当然、座席も違う。
けど、その時も そして今も 嫁は私の左に座り、私は右
二人並んで目の前いっぱいに広がったスクリーンで 大正琴の奏でる「犬神家の一族 愛のテーマ」を聞きながら…
オープニングが終わると 今作も全作とまったく同じ構図で 古い町並みに左奥に赤いポストがある道を金田一耕助が歩いてくる。
前回の そのシーンを見た時は それまでずっと「岡穣二」や「中尾彬」達が「洋装」の金田一だったのに対して はじめてヨレた和服の「本当の金田一耕助」を目の当たりにして泣いたのだが、今日は違う。
続いて登場する 女中の「はる」が昔は「坂口良子」で 今度は「深田恭子」だったけど、全くと言って良いほど同じ画面… オープニングから続く それらを観ていて 私は思ったのだ。
「俺、あれから30年生きたんだな…」と
あの頃は高校生で 夢ばかり一杯で、現実なんか さほど何も判ってないのに いろんな事が判ったような小生意気で…
友人の生き様・死に様を目の当たりにして 少し、冷めたような…
一緒に並んで座っている女の子の横顔を 映画の途中にチラッと見た時、
「俺、きっと コイツと結婚するんだろうなぁ…
そしたら、どんな子供が産まれて どんな家庭になるんだろう?…」
そんな事を考えたりしたんだ。
それらが、オープニングを見て大正琴を聞いたら 一気にブワッと思い出して…
だから、30年前と今回が まったくと言って良いほど同じ構成だった事は むしろ、私にとってはありがたい事だった。
だから、不満点はいくつもあっても 批判したいとは思わない、否、批判できる身では無いのだ。
考えてみれば 今までいろんなリメイク作品を見たけれど「石坂浩二」にとどまらず「大滝修治」や「加藤武」など 主立った配役まで同じで、30年越のリメイクなんてのも おそらく、この先 他の作品でもあり得ないだろう前代未聞な作品なのだ。
しかも、今回のリメイクを見て つくづく思ったけど、多少の不満点があろうとも やっぱ、「市川崑」と「石坂浩二」の横溝作品は最高なのだと。
正月明けに 稲垣吾郎が金田一役で「悪魔が来たりて笛を吹く」が放送されるのも楽しみだけど、たぶん 私はこの先 どんな素晴らしい演出家や役者が金田一モノを作っても「市川崑」と「石坂浩二」の横溝作品より高い評価を与える事は無い。^^;
だって、今回気づいた事で 間違い無く断言できるのは もし、私が
「アナタの青春時代の思い出の映画を挙げてください」
とか
「アナタにとって最高の映画は?」
なんて質問をされたとしたら 今後は間違い無く
「犬神家の一族」
そう、胸を張って断言するからだ。
映画が終わり、場内が明るくなると同時に 嫁はスッと立ち上がり、そそくさと出口へと足早に歩いて行く。
慌てて後を追った私は ようやく嫁に追いつくと
「どうした? 飯、食いに行くんじゃないのか?」
と聞くと
「いいの、帰るわよ」
と、ニベも無い。^^;
早足で歩く 嫁の後を追いながら、駐車場の車に乗り込むと リアシートに座った嫁は車内に置き忘れたポーチからコンパクトを取り出して覗き込んでいる。
ルームミラーでその様子を盗み見したら…
嫁も映画見ながら泣いたらしく、財布どころか化粧道具まで入ったポーチを車に忘れたから 泣いて崩れた化粧が気になって飯どころじゃ無かったのだ。^^
そのくせ、私とルームミラー越しに目が合うと
「何、見てるの? とっとと車を出したら?」
なんて怒る。^^
車が動き出して ややしばらくの後、
「ねぇ? なんでオープニングで あんなに泣いてたの?」
と、嫁が聞いてきたので
「なんかさ、30年前に オマエと見た時の事を思い出しちゃってさ
あれから30年かぁ… とか
あの時の彼女が 今は奥さんか… とか、
いろんな事を感じちゃってさ…」
「アナタ、30年前も 同じ様に泣いてたわよね? 私も それ思い出したわ」
「え? 知ってたの? あの時、俺 泣いてたの」
「当たり前でしょ
横溝見て 何、泣いてんの? この人…って 凄い不思議だったんだもん」
「あぁ、あの時は 違う理由で泣いたんだよ」
「ふぅ~ん、ま、いいけどね」
嫁の その「ふぅ~ん、ま、いいけどね」を聞いたら 違うドラマの1シーンを思い出して また涙目になった私だった。^^;
が、しばしの間の後、嫁が
「ところでさ、あまり ”30年前”って連発しないでくれる? アナタと結婚して まだ30年経ってないんだから」
と、現実に引き戻されて さらに涙目になった私だった(ToT)


