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2006年06月04日

● 大誘拐


著:天藤真 1978年発刊




大誘拐

個人的意見だが、今まで読んできた多くの本の中で 記憶に残る、面白かった本を挙げろ…と言われたら 横溝正史は別格として、つかこうへいの「熱海殺人事件」と この天藤真の「大誘拐」は 必ず思い浮かべる。


それほど、この本の内容には 笑いと驚きを衝撃の様に受けた。


おそらく、この本は「ミステリー」に分類される1冊なので ネタバレは遠慮すべきだと思うけど多少の部分は御容赦願って「あらすじ」を述べると リーダー格である「健次」と刑務所で知り合った空き巣とか カッパライで服役していた二人の若者の3人が リーダーの計画に従い、紀州の山林王と呼ばれる大富豪の柳川とし子刀自を誘拐し身代金をせしめるという計画を実行に移す。


と、ここまで述べると シリアスで凄惨な誘拐事件を多くの人は思い浮かべるのだろうけど、この本は違う。

大誘拐

まず、誘拐犯3人組が 前科持ちではありながら、根本的に「良い奴」なのである。


だから、

大誘拐

お付きの女の子ひとりをお供に、自分の所有する山を見て歩く途中、


大誘拐

3人組に囲まれた刀自が この誘拐犯と押し問答をするのが まず最初の山場で


大誘拐

刀自と女の子の二人を拉致しようとする犯人達に「お付きの女の子だけは 無傷で解放しろ」と刀自は迫り、犯人達も了承する。


その時の会話で「あれ? この話はなんか妙だぞ?」と読者は感じる。


そう、深刻なシリアス劇では無く、どこかにユーモアが漂い始めるのだ。


誘拐犯に出会い、狼狽えるはずの刀自が 最初から堂々と それも理路整然と言い返すのに対し、3人の誘拐犯達は 逆に狼狽える。


そして、2番目の山場であり、最大の山場となる身代金


大誘拐

犯人達は当初、5千万を要求する計画だった。


誘拐されたのを知った 刀自の家族や警察は 大富豪である刀自の事だから、


大誘拐

「2・3億は要求されるだろうと推測する」


けれども、刀自本人が 誘拐犯から身代金は5千万と聞いた途端


大誘拐

「あんた、この私を何と思うてはる。

 やせても枯れても大柳川の当主やで。

 見損のうてもろうたら困るがな。

 私はそない安うはないわ」


「端たは面倒やから、きりよく百億や。

 それより下で取り引きされたら、末代までの恥さらしや。

 ええな。百億やで。ビタ一文負からんで」


と、言い出し 大激怒の末、巨額に変えてしまう。


ここで、確認しておいて頂きたいのは この本は1978年に書かれたもので 当時の金銭価値での5千万や2・3億円と 現代とでは大きく違う…という事。


そして、コミカルタッチな誘拐事件を描いた小説やマンガは多いけど、被害者と犯人の対人関係が逆転するのは 私の知る限り、この「大誘拐」が草分け的存在だ…という事。


その部分だけでも 発刊当時に読んで私が感じた衝撃を推し量っていただけると幸い。


しかも…だ。


大誘拐

大誘拐

大誘拐

捜査の陣頭指揮を執る猪狩県警本部長をはじめ 刀自にひとかたならぬ世話になった者達のエピソードは それだけでも泣ける


いかに、この刀自という人物が多くの人から愛されているか… 天藤真は その辺の描写に完璧に成功している。


特に

大誘拐

「猪狩県警本部長」と


大誘拐

「くうちゃん」という名で登場する二人のキャラクターの設定、そして描写は物凄く素晴らしい。


まさに「浪花節」なのである。


「何故、身代金が百億なのか」


その部分に張り巡らされた伏線は見事と言って他ならない。


それと同時に、この物語全体に込められた 作者の意図を読み終えた時に思う時 なんとも言えない感動を覚えるんだなぁ…


この当時、ここまで凄まじい伏線を張り巡らした小説を 私は横溝正史以外に知らない。


惜しむらくは 天藤真という作家の作品が他に少ない…という事。


「大誘拐」ほどの傑作を もう一冊…と ついつい期待して今日に至ったのが 本当に残念だ。




さて、この本は1991年に


「大誘拐 Rainbow Kids」として映画化された。


大誘拐

監督は「岡本喜八」


大誘拐

柳川とし子刀自「北林谷栄」


大誘拐

猪狩県警本部長「緒形拳」


大誘拐

くうちゃん「樹木希林」


大誘拐

誘拐犯:健二「風間トオル」


大誘拐

誘拐犯:正義「内田勝康」


大誘拐

誘拐犯:平太「西川弘志」


そいて…


柳川とし子刀自の子供達

大誘拐

神山繁


大誘拐

水野久美


大誘拐

岸部一徳


大誘拐

田村奈巳


大誘拐

お付きの女の子(吉村紀美)「松永麗子」


大誘拐

邦子「岡本真実」 等々…


この映像の出来は なかなか悪くない。


特に


猪狩県警本部長「緒形拳」と くうちゃん「樹木希林」


このキーマンとなる二人のキャスティングは 他に考えられないぐらい絶妙だった。


原作に忠実に映像化されたのも よく判る。


惜しむらくは ベテラン俳優達は絶妙なのに 若手のキャスティングが甘い。


同様に、映像化にあたり尺の問題が作用して どうしても原作の濃さが希釈されてしまう。


映像は 誘拐犯に対峙する警察側の視点で制作され その為に、犯人側の描写が薄い。


しかし、原作で 最も濃い部分は 誘拐犯達の葛藤や、とし子刀自に恩恵を受けた人々の気持ち、身代金を用意する為のとし子刀自の子供達の変遷… それらが思いっきり薄められている。


これが とても惜しい。(ToT)


大誘拐

ラストシーンで原作の読者が受ける衝撃


「くわぁ~ そうだったのか…」


これが大きければ大きいほど 作品のクオリティが変わる。


映像で薄められた部分の多くに その衝撃を大きくするエッセンスがあるのだ。


だから、映像でも充分にインパクトはあるのだが、どうしても薄いぶん 原作よりは低い。


この作品は2時間前後という尺に無理矢理納めるのは残念だ。


出来れば3時間、欲を言えば倍の4時間ぐらいかけて映像化して欲しかった。


大誘拐大誘拐

大誘拐大誘拐

大誘拐大誘拐

大誘拐大誘拐

大誘拐大誘拐

大誘拐大誘拐


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コメント

小説は読んでないけど、映画は観ました。

ラストの衝撃は、今も忘れられません!

アレもコレも伏線だったのか~~~!!って感動して、何故か「負けた!」って思いました。(意味不明)^^;


★ あかり さん

この原作は ホント傑作ですよ^^

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