« 村上春樹 考 | TOPページへ | O弁護士の話(その2) »

2006年04月25日

● 口入屋のS(その3)


どこぞのアホが 最近、桜・桜と騒ぐので つい思い出してしまった。^^;




『 喫茶「職安」の話 』というカテゴリ-を設けて 私の学生時代の記憶の一部分を記してみたのだが、何故か 思いの外、「面白い」と言って下さる方が多い。^^;


その中で「口入れ屋のS」氏の事を


  ●『口入屋のS


  ●『口入屋のS(その2)


と、述べ S氏の密かな遺言により、愛知県某所に寄付した公園の一角にある桜の古木のもとにS氏の遺灰を撒いた事も記した。


桜の季節になると 桜にまつわるいろんな思い出が蘇るが、私にとって S氏の事も、甦る思い出のひとつである事は言うまでも無い。


で、以前の記事の中で


S氏は 人一倍それに敏感だから 相手が「嘘をついている」「隠し事をしている」というのが直感的に判るのだという。

細木○子や 昔、「新宿の母」なんて呼ばれた占い師より よっぽど的中率は高かった。

ただし、いわゆる自称:占い師達と同じだったのは 他人の事は とやかく占えても 自分の運命を占う事は出来ない…という事。

それについては また別の機会に述べる事にする。


と、記していた事について 今回は記そうと思う。




S氏は 本人自らが明言する通り、「他人を全く信用しない」人だった。


にも関わらず、喫茶「職安」の常連や 私達バイト学生からは とても好かれた人だった。


「他人を全く信用しない」人って 相当なエゴイスト…というのが普通で、自己中心的だったりするから嫌われるものなのだが、S氏は 全く逆だった。


それは 今、思うとS氏はとても気前が良く、誰かから相談されると その相談に対して、親身になり、率直に応える人だった事と 他の常連達と組んで何かのビジネスを行う時、他の人達もそうだったが、S氏は特に「自分の利益」だけに固執する事を嫌い 組んだ人達の背負うリスクに対して 相応のメリットを与える事にこだわる人だったからだと思う。


S氏が よく口癖の様に言っていたのは


「自分がされて嫌な事は 他人にするな」


という事だったが、


「だからといって、

 自分がして欲しい事を 他人にしろ…って事では無い」


とも、言っていた。


これは、例えば、


「自分が 他人から信用して貰いたいと思うのなら

 まず、自分が他人を信用しろ…

 と言う事では無い。


 むしろ、そんなやり方で得た”信用”なんてのは

 真の意味で”信用”とは言えず、

 そんなものを頂戴するために 

 わざわざ、こちらから”信用”して どうすんだ?」


要するに、


単純に”言葉遊び”の様な 上っ面だけの会話や付き合いしか出来ない奴とは 話していても(付き合っていても)意味が無い。


という事である。


もっと掘り下げて言うと


「物事の本質を きちんと理解しろ」


という事でもある。




さて、これから記述する事は 頭の固いクソ真面目な人に言わせると「犯罪」である。


しかし、今から30年ほど前の話であり、事件として告発されたり 告訴されたり、民事事件として訴えられた事は無く、今後も その可能性は無に等しい。


なので、あえて記してみて 読んだ方が損をしないための参考になればと思う次第だ。


S氏が 人材派遣業を営んでいた事は 先述した別記事で述べた。


彼は 北海道や東北、それに九州などの地域から 農閑期や、冬季で屋外作業が困難の為に仕事が無くなってしまう人達に 本州の自動車工場で期間限定の作業員として働いて貰い その斡旋手数料を生業としていた。


で、そのS氏が 工場と表向き「下請け」として交わした契約に基づき、工場で働く人達の中に いわゆる「夜逃げ」をした人達を潜り込ませ、偽名で働いて貰う代わりに、最低限の「衣食住」を提供し 通常の労働者よりも割高な時給を払っていた。


この件について、以前に記した記事よりも、もう少し詳細なカラクリを述べると…


基本的に 労働者の勤務時間は1日8時間と労基法で定められている。


会社や工場によって マチマチだが、例えば 朝の9時から17時迄 途中1時間の昼食休憩時間を挟み 都合8時間が定時とすると 朝の9時よりも前の時間に出勤して働くと「早出」 17時以降も残って働くと「残業」として賃金を計算する…というのは 誰もが知っている一般常識。


けどね、労働基準法では8時間を越える勤務時間に関する賃金の最低基準として 通常勤務時間の時間給に対して


・時間外は25%以上、深夜労働25%以上、休日35%以上の割り増し。

・休日プラス時間外労働35%以上の割り増し。

・時間外プラス深夜労働50%以上の割り増し。

・休日プラス深夜労働60%以上の割り増し。


ちなみに、平日の午後10時以降の深夜残業については、50%以上の割り増しと規定されている…って 知ってた?


で、工場は 年中無休の24時間体制でフル操業を行おうとすると 24時間を8時間で割った3交代制を導入するわけだが、そうすると午後10時以降の深夜の時間帯に通常勤務するシフトの人員は「深夜残業となるのか?」とか、ピッタリ8時間の勤務だと 残業が無くなるわけだから「生活残業」と呼ばれる ある程度の残業も収入として必要だ…という工員の事情とか そういった問題が現実的には多々、生じる。


しかも、当時は いろんな企業で「組合活動」が盛んで 景気の上昇に乗って生産を増やすために工場の稼働をアップしようと思っても、その為に勤務体制を変更しようとすると組合との合意が必要となる…


しかも、工員を全て 自社の社員として雇用する場合、給料として支払う賃金以外に 社会保険や賞与の積み立て…等々 単純に「時間給@@円」という計算では賄えない「目に見えない経費」が生じるわけで、例えば 会社員が1ヶ月に貰う給料の明細を基に「時給」を計算したとして それが仮に「1000円」だったとしても、その社員を抱える経費や積み立て、会社の負担金などを含めれば 会社は「1000円」+αを支払っている事になり そのα分は500円とか800円ぐらいの金額にもなっているのが実際なのだ。


そして、最大の問題は 景気が低迷したり、生産する車のモデルチェンジ等に伴い 工場稼働を落とした時や 生産ラインを一時的にでも停止した場合に 自社社員だと、その間の賃金をも 全て会社が負担しなくてはならない… そういう事が様々と問題化しつつあったのだ。


それに対して S氏の様な構内下請という形の人材派遣の場合、基本的に非合法色がハナから強い事もあり、作業員自体が それなりのワケアリと心得ているので「労働基準法に完全に則った…」なんて事は要求しておらず、勤務時間が何時であろうと「時給1200円」で同意すれば それ以上のαを会社は負担する必要が無く、ライン停止の間や 稼働停止による人員の削減時には退職金を支給せずに 極端な事を言えば「はい 明日から来ないでいいです」みたいな真似もアリだったのだ。


【筆者注】

厳密な事を言えば もっと細かく色んな状況があるが、書くとキリが無いので 大雑把な記述で済ませます。

ゆえに、ツッコミを入れる場合は その点を考慮してね。^^;


と言うわけで、「賞与」や「健康保険」「社会保険」と言った保障は無かったけど、その工場の正規の従業員が時給換算で仮に「1000円」だとすれば S氏の作業員達は「1300円」から「1500円」の時給を貰い その中から1割をS氏にピンハネされ、S氏は工場からも 下請代価という名目で 作業員1名につき月単位で数万円の「顧問料」を受け取っていたのだ。


この様に述べると S氏は鬼の様な人物に思われるかもしれないが、現実には 作業員達から敬愛を込めて「社長」とか「親方」と呼ばれ続けたのは 保険の無い作業員達が不慮の事故や病気になると その費用をきちんと肩代わりして治療の面倒を見たし、何よりも最大な点は 特に「夜逃げ」の人達の情報を外部に漏らさず、借金取り達を完全にシャットアウトして 特に工場で真面目に働き、稼いだ金で再起を図ろうとする人達には 元の借金取り達と交渉して円満な和解に話を取り纏めたりしたからだ。


実は、この辺にも裏トリックがある。


例えば サラ金、マチ金と呼ばれる類の場合 金利は法定金利をかけ離れ、取り立てが行われる事例の頃には 元本の数倍、数十倍の金額に債務が膨れあがっている。


法律的には これは違法なので対処できる…と言うのは タテマエ論者の弁護士やマスコミが描き出す幻想で 現実は「約束ですから」と 執拗に取り立て行為は行われる。


近年は 不充分とは言え、法改正も行われたが、当時は、破産宣告を受けて免責を受ける…という手法を取る事も選択肢のひとつではあったけど、その場合の法制度の大きな欠陥に 破産及び免責を受ける為には まず、数十万という手続き費用が必要で、追い詰められた債務者が そんな費用を捻出出来るわけが無かった…という事と、破産及び免責を受ける為には 数百万以上の債務(借金)を抱えていなくては駄目で、数十万とか 2・3百万の借金では 裁判官から「頑張れば返済可能な額じゃないですか」と簡単に却下されてしまったのだ。


しかも、債務者自身が取り立ての連中と直接交渉をしようとしても、貸し借りの力関係や 取り立て人が暴力団だったりすると まるで話にならない。


だが、S氏の様な人物や 喫茶「職安」の常連だったOという弁護士が代理人として その取り立て人から「その債権を現金で買い取ってやるから値引け」と話すと 金額が元本プラス迷惑料という形で 金利が大幅に減額された金額で債権譲渡が成立し、作業員が月々の収入から 分割で、その買い取ってもらった債権を分割で返済し、完済した事例は数多く、その後 工場で数年働いて その間に貯えた資金を元手に社会復帰した人達も沢山いる。


けっして合法的な解決では無いけれど、作業員・工場・取り立て・S氏 それぞれが円満に済む事となっていたわけだ。




さて、そんなS氏の「人材派遣業」に翳りが見え始めたのは バブル崩壊により、凄まじいまでの消費経済が アッと言う間に停滞し、大企業の経営者達が 意味をちゃんと理解せずに 誰もが「リストラ」と口にして 社員の大量解雇を始めた事。


特に自動車工場は その影響をまともに浴び、閉鎖される工場が時を経ると共に増加し、外国の自動車会社と提携というタテマエで 事実上の身売りを行ったり…


そんな中にあって「労働者派遣業法」が改正され 表向きは「許認可事業」として それまでは大幅な規制の対象だった項目が表面上は緩和されたわけだが、その期に乗じたのは 実は、それまで期間作業員の大量受け入れ先だった自動車会社等が 自前の派遣会社を作って 自分の系列の工場に人材を派遣する…という事。


実質的には、体の良い「組合対策」であり、リストラによる過剰な出費を抑える…という実利面もあったのだ。


そういう世相の流れを敏感に察知したS氏は 早々に見切りをつけて充分な利益を確保した状態で派遣業を手仕舞った。


だが、問題は その後のS氏の生業である。


年齢的にも まだ50代で充分、新しい事を…と誰もが思っていたのだが、本人曰く


「これと言って やりたい事が無いんだわ」


と、すっかり放蕩してしまったのだ。


まぁ、確かに その頃には喫茶「職安」の主な常連達は 次々と他界し、それまでの仕事を 我々、旧バイト学生達に譲ったり任せたりしていた事も 大きな理由だったのであろう。


「出資もしてやるし、コネや知恵は いくらでもくれてやる。

 株主兼役員としてバックアップもしてやる。

 でも、常勤で陣頭指揮に立つのは もう、まっぴら

 国内をぶらぶらと旅して歩くでよ…」


そう言って、ある日突然 旅に出たかと思うと、ぷらっと我々のもとに現れては 旅の話を聞かせてくれて…


携帯電話を腰につけて 気ままな放浪生活を楽しんでいたのが晩年だ。


そして、ある時の事。


突然、私の友であり 旧バイト学生の一人でもあり、その時には既にO弁護士の後を継いで一人前になっていた「気の弱い弁護士」のもとに とある県警本部から連絡があり、


「保護した老人が 身元保証と引受人として

 アナタ(気の弱い弁護士)と連絡を取りたがっているのだが…」と。


要するに S氏は旅の途中で「オヤジ狩り」に遭い 身ぐるみを剥がされ、行き場を無くして最寄りの交番に飛び込んだのである。


私と弁護士は ぶっ飛んでその地に向かい、事後の処理にあたったのだが…


金銭的な被害や 肉体的な被害は ほとんど無いに等しかったのだが、S氏にとって精神的被害は大きかったようで…


「なんかなぁ… この世が すっかり、つまらんでいかん…」


そんな事を盛んに口走る様になった。


数億からの資産を持ち、かつては ヤクザな取り立て屋や、一部上場企業の労組委員長と 真っ向からやり合った程の気迫の持ち主が すっかり萎えてしまったのである。


そして、それから間もなく、


「もう 思い残すことは無ぅなったで この世はつまらんでいかん…」


と言いだし、とある峠道で車ごと崖から転落し この世を去った。


警察の処理は「居眠り運転による事故死」だが、以前にも述べた様に 詳細な遺言書が「気の弱い弁護士」に託されており、それまでの状況や流れから 我々は「自殺だったのかもしれないな」という思いが今でも拭えない。


でね、最後の最後に S氏が「凄い洞察力の持ち主だったなぁ…」と つくづく思わされたのは その残された遺言書なのである。


と言うのは ごく当たり前の「~の不動産は ~に遺贈する」という内容の他に


「xx年x月x日に 誰それに 金xx万を貸し付けた…」


そこには どういう状況で、どんな理由で申し込まれ、どういう返済をすると述べたのか…が 金銭消費貸借契約を公正証書にしたものと、貸し付けリストが添付されており 


「もし、コイツが素直に返済に応じたら金利は取らずに元本だけ受け取れ」


とか、


「コイツは 俺が死んだ事を幸いに とぼける可能性が高いから

 その場合は キッチリ、ケツの毛まで抜け」


とか、


「コイツは ~まで待ってくれと言い出すけど、

 その期限は 最初から守る気なんて無い奴だ」


とか、


「コイツは 話し合う必要なんて無い。

 即刻、公正証書を材料に法的措置を取れ」


そんな感じで 個別に、事細かに書き込まれており、今でもハッキリ覚えているけど 全部で28件中 26件が、その予想通りの展開になった。


予想外だったのは2件だけで そのうち1件は、貸した相手がS氏と前後して病死していた事。


残りの1件は S氏が亡くなったと聞いて、ブッ飛んで葬儀に駆けつけ


「返済期限を過ぎたまま 3年間、督促されない事を良い事に

 ほったらかしてきたけれど、死んだと聞いて…

 とりあえず、今は半分しか返せないけど

 ひとまず、これで勘弁して下さい」


と、半分だけ持参した者。


その人物への対処メモには


「コイツには 少しだけ世話になり、迷惑をかけた事もあるので

 とりあえず、死んだ連絡だけ入れて 無用に取り立てる必要は無い」


と、書かれていた。


なので、我々は 丁重に礼を言って、借用書を破棄し、持参した金銭を持ち帰るように話した。


すると、その場に たまたま居合わせた別の S氏から金を借りている人物が、おそらくは半分冗談のつもりだったのだろうけど


「だったら、その金 俺の借金の返済にあててくれよ」


と言い、その言い分が癪に障った我々は 唯一、S氏のメモを守らず その人物の取り立てには全力を挙げて まさに「むしり取った」のは言うまでも無い。


お駄賃

 気が向いたら…で結構です。^^;

 この記事への御駄賃がわりに下のバナ-のいずれかを クリックして頂けると嬉しいです。^^
 (全部、クリックしてくれると もの凄く嬉しいのは事実です。^^)

ブログランキング・にほんブログ村へ Blog Ranking 人気映画・TVBLOG blogram投票ボタン BlogPeople「自分のこと」部門にクリック BlogPeople「テレビ」部門にクリック BlogPeople「映画」部門にクリック

『喫茶「職安」の話』関連の記事

コメント

口入屋のSさんの話1~3を読みました。
涙が流れてとまりません。(最近涙もろくていけません)

>「自分がされて嫌な事は 他人にするな」
>という事だったが、
>「だからといって、 自分がして欲しい事を他人にしろ…って事では無い」

深いですねえ。
ちょうど去年の今頃、信用していた人が手のひらを返し去っていったことを私は恨んでいました。
相手からすれば私は「自分がこれだけ親身になって相談に乗り、信用もしてるんだからあなたもそうしてね」っていう態度にみえたのかもしれません。
結局、見る目がなかったのは私。いい社会勉強になったと思うしかないですねえ。

Sさんの哲学、美学がバイトの皆さんに引き継がれていった…まさに「子供を残した」って思っちゃいました。

*ずけずけと知った気に…お気に触られたらすっぱり削除なさってください。

★ satomin さん

>涙が流れてとまりません。

泣けましたか… ども、ありがとうございます^^

>いい社会勉強になったと思うしかないですねえ。

まぁ、状況が判らないので軽々しいレスは失礼かな…と思いつつ ドンマイです^^

>まさに「子供を残した」

まぁ、今風に言えば喫茶「職安」チルドレンですから^^;

>お気に触られたらすっぱり削除なさってください。

また、コメント 待ってます^^

(けっして、嫌味ではありません^^)

【※注意!!】

この記事は『ブタネコのトラウマ』の倉庫に保管されている記事なのでコメントの投稿は出来ません。 2015年2月10日以降 このクソブログは『ブタネコのトラウマ・リニューアル版』に移転しましたので新規記事更新及び、過去記事へのコメントの受付もそちらで行っておりますので お手数ですが、そちらへの移動をお願い申し上げます。