● 短小説「北斗星」 2
北斗星が南千歳の駅を発車したのは ほぼ定刻通りだった。
現在 20時少し過ぎ(東京までの 残り時間 約15時間10分ちょい)
【管理人注記】
続編冒頭にあたり、前回の試作を読んで下さった方より、
「時間的な物も含めてリアル感を味わいたいので
現在の北斗星のダイヤに合わせて記述してくれ…」
という御要望が数件寄せられました。^^;
で、調べてみたら 今、札幌-上野間が約16時間に短縮されてたのね^^;
と言うわけで、今なら すっ惚けて書き直すのもアリかと思い、
今回乗車した北斗星は4号で 札幌発19:27分だった…という事に無理矢理しちゃいます。
と言うわけで、どうか脳内変換の御協力を御願い申し上げます。(謝)
「なんか、夜行列車の旅って ゾクゾクしません?」
( 俺は、なんかザワザワしてる > 女 )
女は喋り続けていた…
私の返辞なんかお構いなしに喋り続けていた。
しかも、話題がコロコロと変わり その速度について行く事が出来なかった。
「あ~ 故郷の街灯りが遠離ってく… 窓から そんな光景見てたら ポロッって涙がこぼれません?」
( ゾクゾクして、涙がポロかよ? > 女 )
「なんか”ドナドナ”って唄の歌詞を思い出しちゃったりして…」
( 俺達は牛か? 売られに行くのか? > 女 )
私は 心の中で 向かいに座ったこの女を『パンドラ』と呼ぶ事に決めた。
そう、札幌を出発して40分も過ぎようか…って頃なのに 私は、まだこの女の名前すら聞いてない。
聞こうと思っても 彼女のトークに入り込む隙間が無いのだ。
まさに、「アパム 弾だ! 弾を持って来い!!」(映画「プライベートライアン」より)状態なのである。
だから 私は勝手に この女を「パンドラ」と名付けて呼ぶ事にした。
そう、パンドラとは「パンドラの箱」のパンドラである。
【ちなみにパンドラの箱の神話とは…】
ギリシア神話で 神のひとりであるプロメテウスが大地の土を水で練り固め神々の姿に似せて人間というものを創り、天界から火を盗んで人類に与えたのだが、この時、プロメテウスが創った人間とは「男」だけだった。
火を盗んで人間に与えた事を怒ったゼウスは、プロメテウスが人間を創った世界に災いをもたらすためにアフロディーテからは美を、アポロンからは音楽の才能と治療の才能を貰い、「女」というものを作るよう神々に命令し 神々は最後に「女」に「決して開けてはダメだよ」と戒めた上で ひとつの箱と「好奇心」を与えて人間の世界に送り込まれた。
そして、ある日パンドラは好奇心に負けて箱を開いてしまうと、箱の中には詰められていた 人間に対する いろんな災いや、労苦や、疾病や、妬み、恨み、嫉み…といった心の芽が ある、ひとつだけを除いて 全て何処かへと飛び出して行ってしまった。
最後に箱に ひとつだけ残ったものは「希望」で そのおかげで人間は様々な災厄に見舞われながらも希望だけは失わず生き抜いていくのだ… と。
つまり、「開けてはいけないもの」、「禍いをもたらすために触れてはいけないもの」を意味する慣用句として「パンドラの箱」と用いられる。
従って 元々の「パンドラ」とは 女の名前なのである。
以上、ウンチク終わり。^^;
そう、まさに その女の口は「開かせてはいけない物」だった。
列車の窓の外をウトナイの湿地の景色が流れていく…
いつしか、私は 頬杖ついて窓の外を眺めている。
そう、さっきまでのパンドラと私の態勢が まったく逆になっていた。
そんな私に気づいたのか パンドラはなおも喋る。
「ウトナイ湖って 元々、禁猟区域だって知ってました?」
不意に尋ねられ、それに私が応えようとするよりも早くパンドラは言った。
「ウトナイ湖だけに 鉄砲は撃てない(ウトナイ) な~んちゃって」
私が もし、この時、猟師だったら間違いなく この馬鹿女の眉間を撃ち抜いていただろう。
「ウトナイ湖だけに 鉄砲は撃っとかないと(ウトナイコ) な~んちゃって」と。
( 俺の方が苦しいな… ドンマイ > 俺 )
( 日本が刀狩りした国で 良かったな > パンドラ )
まぁ、そんな事はどうでも良い。
私には 目的がひとつあったのだ。
不意に 人を小馬鹿にした様なオルゴール音が響き 間の抜けた車掌のアナウンスが聞こえる。
「後5分で 苫小牧に到着です。
お降りのお客様はお忘れ物の無い様に…
苫小牧には2分間の停車です」
そのアナウンスから数分後、私は スッと席を立ち、列車の出口へと向かおうとした。
その姿を見て パンドラが叫ぶ
「あ、もしかして 私が喋り過ぎだから席を変えて貰うんですか?」
( なんだ そりゃ? > パンドラ )
( あ、でも… その手も悪くないな… > 俺 )
応えようかと思ったけど、列車は苫小牧駅に入り始めた。
のんびりしている訳にはいかないのだ…
現在 20時20分(東京までの 残り 約15時間)
To be continued … ( 続く … かもしれない ^^;)
