● 「亡国のイ-ジス」
映画「亡国のイ-ジス」が 間もなく公開される。
映像を観てから語るか、観る前に語るか しばし、悩んだが 今回はあえて観る前に語ってみたい。
近年、気のせいか 国内の軍事モノの小説や映像のクォリテイが上がった様に個人的には感じている。
どこが、どのように?と 問われても巧く説明する自信が無いが、旧軍や自衛隊などを扱う場合に 私流の言い方を用いれば 左がかった偏見まみれの脚色や考証が減り、
「へぇ…」
と思う様に 細かいことを言えば軍服の階級章みたいな部分にまで それなりに考証する様になったんだなぁ…と感じる。
とは言え、あくまでも「感じる」だけで 軍事オタクの私に言わせれば 以前のは御粗末過ぎて話にならず、最近のだって いろんな所に粗が目立つ。
けれども、以前の様に「どうでもいいじゃん」みたいな いい加減さが減ってきた…そう言う意味で「へぇ…」と思う程度ではある。
愚見だが、映像の場合 賛否両論のある作品ではあるけれど スピルバ-グの「プライベ-ト・ライアン」が もしかしたら その転帰になったんじゃなかろうか? と、考える。
そして、小説においては トム・クランシ-の影響が大なんじゃないか?とも思う。
どちらも 軍事的考証へのこだわりは それまでの作品とは格段の違いがある。
細かい事を言えば「プライベ-ト・ライアン」の場合 ラストの運河の街での橋をめぐる攻防戦におけるドイツ軍の構成や動きが軍事的におかしい…と見る声がある。
それに関しては 正直言って 私も同意なんだけど、でも、そのおかしさは「許容範囲」と許せる範疇だとも思っている。
だって、サイズや微細な点が 実物と違うと言っても あれだけ本物っぽく金をかけてくれた その熱意に敬意を表したいからだ。
昔の戦争映画で 今日でも高い評価を得ている作品は数多あるが、たとえば「バルジ大作戦」では 壮大な戦車戦は迫力満点だけど マニアに言わせれば画面の戦車は「M4」や「タイガ-」では無く 「M24」が殆どだったりなのだ。
しかし、いち映画ファンとしては 充分に満足できた作品である事には間違い無い、とは言いつつ、残念という思いも拭えず… 複雑な気分だったのだ。
ただ、昔の様に そのものズバリのM4戦車では無くても まだ、稼働可能なM24等があるうちは良かったのだが、年を経て そういう稼働可能な車両が無くなってくると同時に 戦争映画の物語じたいも 装備など二の次で、
「戦場に兵士として息子を送り出した母の葛藤」とか、
「戦場と祖国に離ればなれになった恋人の物語」の様に
純粋な戦争映画は ほとんど姿を消し、愛だの恋だの家族だの…という方向に重点を置いたスト-リ-の作品が多く作られるようになった。
これは いわゆるハリウッド系の映画の話で 邦画においては さらに悲惨な状況と化す。
「戦争映画」の様に見えつつも 実は「恋愛映画」みたいな作りのものばかりで、ねじ曲がった反戦主義なら感動して泣けるような作品なのかもしれないが、私の様に 右寄りの考え方の物には 戦場で散った英霊への冒涜としか思えないシ-ンの多さに辟易するばかりだった。
いくら 私が右寄りだからといっても、「戦争万歳」「天皇陛下万歳」路線が最高…なんて言う気は無い。
せっかく大金を投じて制作するのだから もっと視聴者の魂を揺さぶるような作品を作れ…と言いたいだけなのである。
「この原作 面白いんだよ。 もう既に ○○万部売れてるし…」
「じゃ 主役は真田広之で 脇に中井貴一と寺尾聰で どう?」
一歩間違えると「たそがれ清兵衛」「壬生義士伝」「半落ち」… 日本アカデミー賞つながりですか? と、勘ぐりたくなる配役だったりする。
と言うのは、邦画って よく「制作費○億円の壮大なスケ-ルで…」と宣伝するわりに、実際 その制作費って 主役や準主役クラスの役者のギャラで消えてませんか?みたいな作品ばかりだからだ。
スピルバ-グの名作に「バンド・オブ・ブラザ-ス」という 10時間物のTVシリ-ズによる 戦争物の最高傑作がある。
この作品を観て その内容には ただただ、感動しまくりだったのだが、その中でも たいしたもんだ…と感嘆したのは 出演者の殆どが ほぼ無名に近い役者達だ…という事。
つまり、制作費の大半は 役者のギャラなんかじゃなく、和風に言えば大道具や小道具に費やされた…という点。
もうね、制作における着眼点や力点が 全然、違うんです。
確かに、人気があり、実績がある役者の演技は安定しているし、その役者の人気じたいで客も呼べる。
そう言う意味では 商業的に考えて、役者のギャラで制作費の大半が消えても 安全策と思えるのかもしれない。
しかし、そのぶんの影響は考証に跳ね返り、「リアリティが欠ける…」とか「なんか、安っぽい映画だなぁ…」という感想へと繋がる。
その点、「亡国のイ-ジス」は イ-ジス艦の実物大セットを組むなど 単に役者のギャラ以外にも金をかけているぞ…という雰囲気は伝わる。
最近は いろんな面で「開かれた自衛隊」政策のおかげか 海上自衛隊も かなりな協力をしているらしい。
そういう話を聞くと 私の様な者は とても楽しみに期待してしまう。
さて、映画が公開前という事もあるので 原作の内容のネタバレは極力避けようと思うが…
内容的には スティーブン・セガール主演の「沈黙の戦艦(1992/米)」のパクリですか?と言い出す評論家モドキが きっと現れると思う。
個人的な感想を言えば 原作は全体の2/3までは もの凄く面白いと思った。
だから、終盤1/3の部分は せっかく、ここまで良い案配だったのにぃ…と 歯ぎしりした。
これは 別の作者だが「宣戦布告」という作品にも感じた事。
着想も面白いし、背景描写も 実に興味深い展開なのだが 終盤がいただけない。
なんか、尻切れトンボというか 力尽きた…とでも言おうか。
映画版で その辺が どう描かれているか、私は 個人的に そこが最も気になる点なのである。
