● 雑感(5月17日)
「春うらら ひねもすのたり のたりかな」
なんでかなぁ… 午後の昼下がりに ふと、その句が浮かんだ。
けっして、天気が良かったわけでは無い。
かと言って 雨が降っていたわけでも無い。
寒くもなく、暑くもなく 縁側代わりのテラスに腰を下ろし、2匹の猫にブラシをかけていたら ふと、その句が浮かんだのだ。
毛代わりの季節でもあるから 嫌になるぐらい、ブラシに毛が抜ける。
猫達も 余程、気持ちが良いのか ゴロゴロと喉を鳴らしながら 私の周りを転がりまわる。
庭の一角に 猫が好むイネ科の雑草みたいな草を芝代わりに植えてあるのだが、好むだけあって ムシャムシャと猫はむさぼり喰らう。
彼等は 時々、草を食べて体内に溜まった毛玉を吐く。
猫の健康には 必要、不可欠なのである。
嫁は 朝から熱心にプランタン・ポットに花の苗を植えたり、垣根の周囲に朝顔やホウセンカの種を蒔いたりしている。
そんな、のどかな午後を過ごしていたら なんだか、中学や高校の時に覚えた俳句や短歌が 次々と浮かぶ。
「故郷の訛懐かし停車場の
人ごみのなかに そを聴きにゆく」
石川啄木である。
そう言えば、石川啄木の作には 別に
「東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて 蟹とたはむる」
という歌がある。
高校の時の授業で いきなり教師から指名され
「ブタネコ君、この歌の心情を述べよ」
と、問われた事がある。
教科書で机の上を隠しながら 弁当を食べていた最中だったので 余裕が無く、予習もまともにしていなかったから…
「東海地方の小島という場所にある 砂浜で泣きながらカニと遊んだ… です。」
ってな感じの事を応えたら、教師が 重ねて続けざまに
「なんで泣いてたんだ? 啄木は」
と、聞かれ
「おそらく 啄木は”海が見たい”って小生意気な事を言う彼女に引きずられて 渋々、海に行き、二人で砂浜に並んで腰を下ろして 水平線を眺めているうちに ムラムラして ガバッと彼女を抱き寄せようとしたら その彼女にアッサリと”あ、カニだ”なんて言って身をかわされたのが悲しくて泣いたんだと思います」
と、答えたのだ。
教師は呆気にとられ、教室内は 何故か爆笑で…
「授業中に弁当なんか食ってるから そんな馬鹿な事を思いつくんだ」
と 後で、教員室で怒られたのだ…。
実際ね、その時の直前に それに近い出来事が 私の身の上にあったのだ。
当時の女の子って 何かっていうと 遠い目をして
「海が見たい」
って呟くのが 大流行してたのだ。
歩いて5分とか、自転車で せいぜい30分ぐらいの距離だったら いくらでも付き合ってあげたけど 当時、私が住んでいた札幌南部では 一番近い海でも、小樽の手前の”石狩浜”まで 車でも30分以上かかるわけで、簡単に「海が見たい」って言われても 高校生の私には「はい、そうですか」ってわけにはいかなかったのだ。
でもね、当時 付き合ってた彼女が その恐ろしい呪文「海が見たい」を唱えたのだ。
国鉄の汽車(当時はJRじゃ無いし、電車も無かったんだ)に乗って行きましたよ 小樽まで(付き合わされて)
南小樽の駅で降りて 歩いてフェリ-埠頭まで行きました。
埠頭に着いた時に 彼女が言った台詞を 今でも覚えています。
「寒いから 帰る」
(着いて5分も経ってないじゃん…(ToT))
また、歩いて南小樽の駅に行って 汽車に乗って札幌に戻ってきて…
手も握らなかったから、当然 それ以上の事など何も無かったんだ。
だから、啄木の「東海の…」を耳にした時 自分自身の せつなく悲しい気持ちを つい心情で言ってしまったのだ…
と言っても 誰にも判る筈無いのだが。
その時の 彼女が 今の嫁である。
こちらに背中を向けて プランタン・ポットをいじっている嫁の尻を見てたら なんだか、腹が立ってきた。
私「(嫁に)なぁ? 高校生の時にさ、小樽に海を見に行ったの覚えてるか?」
嫁「え? 行ったっけ?」
私「オマエが”海が見たい”って言い出してさ、行ったじゃん」
嫁「え? そうだっけ? 覚えて無いなぁ…」
私「南小樽の駅から 歩いてフェリ-埠頭に行ったじゃん」
嫁「そんな事あったっけ? 全然、覚えて無い。 それより、それが どうかしたの?」
私「いや、ふと 思い出してさ」
嫁「何よ いきなり…」
私「”春うらら ひねもすのたり のたりかな”って句が浮かんでさ…」
嫁「? アナタ それ違うわよ」
私「え?」
嫁「与謝蕪村でしょ? だったら、”春の海 ひねもすのたり のたりかな”よ」
私「え?」
嫁「恥ずかしいから 余所で言わないでね。 そんなボケじゃ笑い取れないわよ。」
おい、嫁 「笑い取れないわよ」って 俺は芸人じゃ無いんだよ(ToT)
オマエこそ 高校の時に二人で海に行った想い出ぐらい覚えておけよ…(ToT)
思わず、つい力が入ってしまったらしく ブラシのかけ方が悪いと 猫に「フギャッ」と噛まれて 会話は そこで終わった。
それが、今日の午後の出来事だ…


