● 「世界の中心で愛をさけぶ」墓参り
ある日の昼下がり、仲の良い友人数人と とある喫茶店に集まってお喋りに興じた。
いい歳をしたオッサンが 真っ昼間の時間帯にお茶を飲んでいる… それだけで、そこに集っているオッサン達がロクでも無い人物ばかりだと思われても仕方が無い。
はるか昔、喫茶店と言えば 商店会のオッサン連中が夕方の買い物客で混む前に 一服を兼ねて屯する場所…だったり、学校をサボった学生が 隠れてタバコを吸う場所…だったり、ヤル気の無い営業マンが サボってマンガやスポ-ツ新聞を読む場所だった。
一時期は、ガラの悪そうな顔、趣味の悪そうな服装、身につけた本人の中味よりも貴重で高価な貴金属を身につけ、「グヘヘヘ」と下卑た笑い方ばかりの自称:不動産屋や 自称:金融業という連中が密談する場でもあったのだが…
最近は、これと言って特徴のある客は減ってしまい閑散とした店が多い。
さて、そんな昼下がりの喫茶店に集ったのは ニ-トと呼ばれてもおかしくない私、アキバ系研究員を束ねた某国立大学理工学部教授、腕力しか取り柄のない歯科医、易者の様な診断しか下さない2代目開業医、もの凄く気の弱い弁護士…等である。
共通点は 皆、高校の同級生で 今でも頻繁に集うゴルフやマ-ジャン仲間でもある。
本当なら 何処かの雀荘でパイを掴みたいとこなのだが、馴染みの雀荘が改装中である事もあって 今回は喫茶店だったのだ。
一昔前、「異業種交流」という言葉が ビジネス雑誌で取り沙汰された事がある。
業種の違う人達が それぞれの独自の視点で他業種に対する比較や検討を行い、それを自分の業種に生かす…等を目的とした活動である。
言葉に踊らされるのが大好きな ロ-タリ-・クラブや商工会議所の爺ぃ共が 気が狂った様に「異業種交流パ-ティ-」なるイベントを 何処かのホテルの宴会担当営業マンと裏で手を組んで催しては私腹を肥やしていたが、言うなれば その日の私達のお茶こそが 立派な「異業種交流」であり、ざっくばらんに互いの仕事にケチをつけ合っている様に見えても 実は 色々と参考になる話という物は沢山あるのだ。
その日の我々の話題は 某国立大学教授が 気の弱い弁護士への 法律相談から始まった。
某教授「ブタネコ(仮名:私の事)がさぁ 俺の研究室の学生達を精神的におかしくしやがってよぉ…」
開業医「え? どういう事?」
某教授「『世界の中心で愛をさけぶ』ってドラマがあったべ? あれ、流行らせやがったのよ」
歯科医「あ~ 観た観た、俺も観た 良かったもなぁ… 泣けたもね」
某教授「おかげでよぉ… 学会誌に載せる論文は なかなか纏まらないし、研究中に涙ぐんでる奴はいるし…」
開業医「え? そうなの? 『世界の中心で愛をさけぶ』って 俺、まだ観てねぇや そんなにいいの?」
私「(開業医に対して)オマエ まだ観てないの? 駄目だ あぁ… そりゃ駄目だ そんなんだから オマエの病院、死亡率が高いんだぞ」
開業医「死亡率って… オマエ、変な噂を流すなよな。 俺んところは ヤバイなぁ…と思ったら ちゃんと大学病院に転送してるぞ」
歯科医「そりゃそうだ、(開業医に対して)オマエの病院に行く…ってだけで もう”手遅れ”だもんな」
開業医「フザケンナよ この野郎! オマエだって、親不知抜き損なって 顎の骨にヒビ入れた患者 俺の所にまわしたじゃ無ぇか」
歯科医「あれは 抜き損なってヒビ入れたんじゃないよ 最初からヒビが入ってたの。 虫歯の痛みじゃなくて ヒビの痛みだったんだよ」
開業医「なら わざわざ親不知を抜いて寄越さなくてもいいじゃ無ぇか」
歯科医「バカヤロウ 俺が抜かなきゃ 誰かが抜くんだ。 だったら、俺が最初に抜くまでよ」
某教授「(歯科医と開業医に対して)オマエ達のいい加減な医療行為はどうでもいい。 それより、ブタネコの問題だ」
弁護士「(某教授に対して)で、俺に相談って 何?」
某教授「こいつ(私)を訴えたい」
私「へ? なんで?」
某教授「紛れもない 業務妨害だ。 オマエのやった事は 俺の研究室に対する 精神的テロ行為だ。 ウチの研究員達は 再起不能状態なんだぞ 今」
弁護士「で? 賠償請求するの?」
某教授「民事訴訟でも 刑事訴追でも なんでもいい。 とにかくコイツ(私)を反省させてくれ」
開業医「『世界の中心で愛をさけぶ』を流行らせた…って事で 訴えられちゃうの?」
某教授「研究室が破壊されたのと同じだ… ありゃテロ行為だ」
私「(某教授に対して)訴えたければ、好きにすりゃいいさ… けどよ、オマエは『世界の中心で愛をさけぶ』観たのか?」
某教授「えっ?… そんなの観るわけ無いだろ」
私「嘘つけ、オマエがDVD-BOXをネット通販で購入した…って情報を オマエの奥さんから聞いてるぞ 1ヶ月も前にな」
某教授「…(絶句)」
歯科医「(某教授に対して)そうなの? で、観たの?」
某教授「み・観た…」
弁護士「泣いたの? 俺は泣いたよ」
某教授「な・泣いた…」
歯科医「泣くよな? な? あれ観て泣かなきゃ嘘だもの、俺なんか 泣きながら患者の虫歯を削ったよ」
弁護士「だよなぁ… 俺も、「セカチュ-」観てから ちょっと考えが変わったもんなぁ…」
開業医「そうなの? そんなに良いドラマなの?」
私、「オマエも 健康保険の点数の水増しばかりしてないで「セカチュ-」観ろよ」
弁護士「しかしなぁ…(某教授に対して)「セカチュ-」観て泣いたんだべ? だら、駄目だわ 裁判所への説得力が欠けるもな」
歯科医「判決、某教授の訴えを却下する。 主文、「セカチュ-」を観て泣くのは 人間として当前の事であり、それを認めない某教授の主張にこそ 非人道的、かつ反社会的行為が含まれると判断する… だな」
弁護士「「セカチュ-」観て泣いた裁判官が担当したら 某教授に対して「死刑」まであるな」
まぁ、ここまでの会話は 友人間のフザケタ会話なので 読み流して頂きたい^^;
これまで このブログ内の『 世界の中心で愛を… 』カテゴリ-の記事に 色々と書き連ねてきたが、その中で 高校時代に白血病で亡くなった友人がいる事を述べた。
そこに集った 某教授、歯科医、開業医、弁護士達も やはり、同級生だったのだ。
皆、30年近くの月日が過ぎても その亡き友を忘れてはいない。
TV版「世界の中心で愛をさけぶ」第11話のラストにある アキ父の台詞に
(アキ父)「寂しいんだろ… 俺もそうだ、
見たくないことまで 夢に見ていたのに見なくなってね
そのうち、思い出すのにも時間がかかるようになって…
あの時はどうだったか?って 女房に確かめるようになって…
でも、忘れたいのでも 忘れないのでもなくてね
人間は忘れていくんだよ 生きていくために…
まぁ、そんなことは お医者様に説教してもな…」
というのがある。
「人間は忘れていくんだよ 生きていくために…」
娘を失った父が その娘に対する記憶…という意味での言葉ではあるが、こういう事は そうは言いながらも 実は
「忘れている様で 実は忘れていない…」
ものだったりするのだ。
だから、ちょっとした何かのキッカケで ズド-ンとフラッシュ・バックの様に記憶が蘇るのだ。
私や同級生達は 世代的に「バブル景気」の中で 荒稼ぎをしたり、浮かれもしたし、羽目を外した遊び方もした。
それぞれが それぞれの仕事や日常の中で 若くして亡くなった友の事を忘れていた時期も確かにある。
けれども、TV版「世界の中心で愛をさけぶ」の様なドラマに出会うと それが、如実なキッカケとなって 亡き友の記憶と共に、まだ 何も判っていなかった学生時代の ピュア(純粋)だった頃の自分や友人達の事まで思い出す。
そして、我が身を振り返り いろんな事に反省したり、時には後悔したり、自己嫌悪に陥ったりするのだ。
こういう機会や、時間は けっして無駄な時間では無い。
むしろ、こういう機会があってこそ これから将来に向けての人生の中で 非常に尊い経験になるはずだと思う。
アキバ系研究員を束ねた某国立大学理工学部教授は、学生達に理工学だけじゃ無い、「何か」を教える様になり、腕力しか取り柄のない歯科医は、患者の身になって…という部分に「何か」を思い出す筈であり、易者の様な診断しか下さない2代目開業医は、自分の為だけじゃ無く患者の為の健康保険の点数計算をするようになるかもしれないし、もの凄く気の弱い弁護士は 時には泣きながら「愛をさけぶ」弁護をする様になるかもしれない。
それらが、世の為、人の為になるかどうかは判らないが、現状におけるロクでも無さからは ささやかながらも、マシだと思う。
世の中が良くなる…というのは そんな「ささやかなマシ」の積み重ねによるんじゃないか?と思うとTV版「世界の中心で愛をさけぶ」の様なドラマが果たす役割や 与える効果は大きいと思う。
現実的な結果としては 易者の様な診断しか下さない2代目開業医は、早速DVD-BOXを購入し、半日ブッ通してTV版「世界の中心で愛をさけぶ」の第1話からメイキングまでを観て「心が洗われた」と称し 真面目に往診に出かける日々を過ごしているそうだ。
それはそれで大変、結構な事だとは思うのだが 彼の場合、問題なのは その話を彼の奥さんから聞くのでは無く、2人いる愛人の片方から…だという事である。^^;
「雪が溶けたら みんなで亡き友の墓参りに行こう…」
そう約束し合う友人達がいる…というのは ありがたい事である。
TV版「世界の中心で愛をさけぶ」第11話のラストで 柴咲コウが歌うテ-マ曲が流れる中、17年後の智世、ボウズ、スケのカットが流れる。
智世は娘に「亜紀」の名をつけ、ボウズは たこ焼き屋で托鉢、スケは船に夢島のサクとアキの写真…
私が、原作を好まず、映画版よりもTV版で感動するのは こういう所をしっかりおさえてあるからだ。


