● 挨拶
私の父は人気者だった。
いつも堂々としていて 歯に衣着せぬ言動で 相手が上司だろうが、ヤクザだろうが 平気で時には食ってかかる人だったが、思っている事を口にする分、腹に溜める事が無く、喧嘩した相手であっても 父の真意を理解した人は すぐ仲良くなる… そういう人だった。
大酒のみで、でも酒に強く、大抵の人が飲み潰れていても豪快に笑っている人だった。
そんな男だったから、歓送迎会等 宴会があると決まって乾杯の音頭を取る役が多く、その際に行う 簡単な一言の挨拶が 実にウィットにとんでいて周囲には それを聞くのが楽しみに集まる人も多かった。
父も父で 実は そう言う場でスピ-チするのが 実は大好きで、前日の夜に風呂に入りながら ブツブツと独りでリハ-サルしている姿を何度か見たものだ。
そんな父が ポックリと呆気なく死んだ時、札幌市内でも指折りの大きな斎場であったにも関わらず、用意した席では全然足りず、廊下まで溢れるぐらいに弔問客が集まって下さったのを見た時は「親父、凄ぇじゃん」と その偉大さに感動した。
そんな方々が 皆、口を揃えて 喪主の私に「親父さんの豪快な乾杯スピ-チ聴けなくなるのは寂しいなぁ…」と言ってくれたものだ。
僧侶の読経が終わり、喪主の挨拶の段になり、私は大勢の弔問客を前に挨拶を述べ始めた。
「本日は 大変、暑い中、しかも、皆様お忙しい中を御参列頂き…」
喋っているうちに なんとなく、
「こんな時、親父だったら 何て話すのかな…」
という思いが 頭を過ぎった。
そして、父がスピ-チする時に 必ず最後に付けていた台詞を思い出し、
「どうせ喪主は 個人の成り代わりなんだから いいや」
そう思って 挨拶の最後を
「尚、故人に成り代わり 最後に もう一言だけ失礼いたします。
本日、御参集頂きました皆様の御多幸と 御参集頂かなかった方々の御不幸を祈念して 甚だ簡単ではありますが、挨拶に代えさせていただきます。」
と、締めた。
父は いつもそう言ってスピ-チを締め、「乾杯!」とやっていたのだ。
斎場内は 一瞬、静まりかえった。
中には、呆気にとられた顔で 私を見ている人が一杯いた。
しかし、すぐに どこからか
「いい挨拶だ! それでこそ 親父のセガレだ!」
と 野次が飛び、方々から拍手の音が響き始め やがては いろんな掛け声と共に 半数以上が拍手しだした。
斎場で拍手と掛け声が飛ぶ… 斎場関係者には 余程、奇異だったのであろう。
泣き笑いしながら「良い葬式だった」と言って帰途についた弔問客が少なくなかったそうである。
斎場の責任者から 後になって、「いやぁ いろんな葬儀に携わってきましたけど 今回は勉強させて頂きました」とも言われた。
しかし、一部の親戚からは「親父の葬式で なんて挨拶するんだ このバカ」と酷く怒られた。
元々、父の遺伝子を貰っていた影響もあるのだろうけど、そして 元々、私も 歯に衣着せぬ言動の持ち主であったけど…
多少は他人の顔色や世間体を気にしていたところがあったのだが、その時以来、「俺は これでいいんだ」と腹を括れる様になった。
「文句があるんなら いつでも親戚の縁を切ってくれて構いませんよ」
それまで、両親のてまえもあって遠慮していたが、初めて 大叔父に対して言い返した。
もの凄く、清々しい気分だった。
しかし、そのぶん翌年から 娘の貰えるはずだった「お年玉」は減った。
